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あらゆる分野を統合する知の体系をつくる読書 文化庁長官 近藤誠一氏

2012/12/23

 外務省広報文化交流部長、ユネスコ日本政府代表部特命全権大使、駐デンマーク特命全権大使などを歴任し、外務省出身としては初めて文化庁長官に就任した近藤誠一さん。外務省時代から様々な書物に触れ、海外生活を体験しながら、文化芸術の重要性を痛感していたという。

近藤誠一文化庁長官

 文化庁では「アーティスト・イン・レジデンス」政策を推進しています。外国の芸術家を招き、日本に滞在しながら創作活動をしてもらう制度です。日本文化の特徴を言葉で伝えようとしても、欧米の人たちにはなかなか分かってもらえない。ところが、日本の風土の中で暮らしてみると、それが体で分かってくるのです。彼らが日本で様々なインスピレーションを得た後、自国に戻って世界を舞台に活躍するようになれば、日本にとって大きなプラスになるでしょう。

――そんな思いを強くする日本の古典との出合いがあった。

 日本三大説話集のひとつに挙げられる『古今著聞集』(日本古典文学大系・岩波書店ほか)です。文化勲章を受章された電子工学者の猪瀬博先生にご教示いただきました。短い話が700話ほど収録されています。ひと通り読みましたが、中でも巻七の「嵯峨天皇、弘法大師と手跡を争ふ事」という話に共鳴しました。

 嵯峨天皇も弘法大師空海も書道に堪能で「三筆」と呼ばれていましたが、嵯峨天皇がご自身の秘蔵の手本を取り出して「これは唐の人の手跡だ。どのようにまねてもこのようには書けない」とおっしゃると、空海は「これは私が書きました」と答えます。しかし、天皇はお信じにならない。そこで、その軸に「青龍寺にてこれを書す、沙門空海」とあるのを見せて、空海はこう言います。「唐は大国なのでその土地にふさわしく強い筆勢で書けますが、小国の日本にいると弱い筆勢になってしまいます」。嵯峨天皇はこれを聞いて大いに恥じ入ったとあります。

 青龍寺は当時の国際都市、長安にありました。長安が世界の文人を迎え入れ、彼らに様々なインスピレーションを与えた偉大な都であったことを『古今著聞集』は雄弁に物語っています。まさに「アーティスト・イン・レジデンス」の先駆けと言っていいでしょう。当時の長安のような存在になる資格が、東京にも京都にも十分にあると思います。

 日本が西洋の文明を消化したうえで、それを超えて新しいパラダイム(物の見方)を世界に提示していくために「アーティスト・イン・レジデンス」は有効な方法だと思いますし、そう考えるたびに長安の話が頭をよぎります。

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