アート&レビュー

日経小説大賞

満票集めた歴史ロマン 人間の再生、詩的に描く

2011/10/20

時代をとらえた豊かな物語性を有し、社会・娯楽性も兼ね備えた作品の発掘を――。「日経小説大賞」(日本経済新聞社・日本経済新聞出版社共催)の最終選考会が行われ、大賞に梶村啓二「野いばら」が選ばれた。ストーリーを支える圧倒的な文章力が激賞され、賞の創設以来初めて、満票での栄冠となった。

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梶村啓二(かじむら・けいじ) 会社員。大阪外国語大卒。第2回日経小説大賞で「百年のアルマンド」が最終候補に。52歳。

第3回日経小説大賞には216編の応募があった。400字詰め原稿用紙で300枚以上600枚以下という長編作品が対象。応募者は40~60歳代が多く、歴史、時代、経済、ミステリー、恋愛など幅広いジャンルが出そろった。

第1次選考を通過した20編から今回、最終候補作として選ばれたのは5編。新聞記者を主人公に脳死臓器移植問題を描いた芦崎笙「公器の幻影」、贋作(がんさく)を扱う骨董(こっとう)品店と周囲にうごめく人々をミステリータッチに仕立てた貴水真由「贋物(がんぶつ)師見習い」、元ボクサーが国際ビジネスの世界で活躍する経済小説、長野慶太「逆光のボス」、幕末の横浜での悲恋の物語と現代の欧州を交差させながら、男性の人生の再生をつづった梶村啓二「野いばら」、アフリカを舞台に、魔術を信じる少女らが躍動するSFサスペンス、本間かおり「爆弾とエリキシール」など個性あふれる作品がそろった。

最終選考は7日、阿刀田高、川村湊、辻原登、津本陽、縄田一男の5人の選考委員が出席して行われた。各作品を○△×で評価し、最も推す作品には◎を付ける方式で審査をしたところ、全審査員が一致して「野いばら」に最も高い評価をつけた。その後の討議では、「文章に広がりがあり、詩的な響きに満ちている」など、とりわけ文章力を高く評価する声が相次いだ。

次いで評価の高かった「逆光のボス」「公器の幻影」を加えた3編で最終投票をしたが、満場一致で「野いばら」が大賞に決まった。「様々な新人賞を審査してきたが、その中でも屈指の作品」などの声があがった。(敬称略)

<あらすじ>
醸造会社で欧州の種苗会社買収に携わる縣(あがた)が英国田園地帯の庭園を視察中、車の故障をきっかけに出会った初老の女性から、ある日本人へ向けて100年前に書かれた英国人の手記を託される。つづられていたのは、生麦事件が起きた横浜で、幕府との交戦を想定し軍事情報探索の命を受けた海軍士官の、日本語教師の女性への秘めた思いだった。手記に心奪われていた縣がオランダの空港で偶然出会ったのは……。

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