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アートの答えは1つじゃない 米異色コレクターの教え 映画「ハーブ&ドロシー」監督に聞く

2013/2/11

 映画「ハーブ&ドロシー」はニューヨークに住む異色の現代アートコレクター、ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル夫妻の日常を追ったドキュメンタリーだ。2010年、日本で現代アート愛好家を中心に話題になり、ロングラン上映された。3月には、続編「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」が劇場公開される。監督の佐々木芽生さんに作品への思いを聞いた。

 郵便局員のハーバート(右)と図書館司書のドロシー。ニューヨークに暮らす平凡な2人が1960年代に結婚後、4000点以上の現代アートを買い集め、世界屈指のコレクターと言われるまでになった。購入の基準は収入で買える値段で、1LDKの小さな部屋に収まる大きさであること。前作「ハーブ&ドロシー」は、質素に暮らし続けた夫妻の個人史を振り返った。  続編「ふたりからの贈りもの」では、アメリカ全土の美術館へと贈られた彼らのコレクションの行く末を追いかける。3月30日から新宿ピカデリーほか、全国で順次公開。

■1LDKの大コレクター

――なぜ、ヴォーゲル夫妻の映画を作ろうと思ったのですか。

佐々木監督 2002年、あるテレビ番組の制作中にヴォーゲル夫妻の話を知り、本当にそんな人がいるの、とすごく驚きました。彼らは1992年には2000点を超えたコレクションのすべてをナショナルギャラリー(アメリカ国立美術館)に寄贈し、当時は大きなニュースになったそうです。すでに10年が過ぎ、世間では忘れられかけていた2人の物語を、あらためて多くの人に伝えたい、と強く思いました。その数年後、パーティー会場で初めて夫妻に会った時、その場で取材を申し込み、4年間密着しました。

 佐々木芽生(ささき・めぐみ) 札幌市生まれ。1987年に渡米して以来ニューヨーク在住。NHKのニュースディレクターやリポーター、TV番組制作に従事する。2002年にプロダクション「ファイン・ライン・メディア(Fine Line Media)」を設立。08年に発表した初監督作品「ハーブ&ドロシー」は全米各地の映画祭で数々の賞に輝いた。日本や世界各地でヒットを記録した。

――初めて会った夫妻はどんな印象でしたか。

佐々木 ニューヨーク市長公邸で開かれたパーティーだったのですが、派手に着飾ったアート関係者たちの中、ハーブとドロシーは非常に目立っていました。あまりに普通のおじいちゃんとおばあちゃんでしたから。

――「普通の人」が大コレクターになったことに興味を引かれた。

佐々木 それだけなら、よくある話かもしれません。夫妻がすごいのは、すべての作品を公立美術館に寄贈したことです。値段が上がった作品を数点売れば大富豪になれたし、目利きの才能を生かしてギャラリーを開くとかアートディーラーになることもできた。でも、そうせずに1LDKのアパートで年金生活をしている、その生き方に何より共感しましたね。

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