大企業で埋もれるよりも…ベンチャーで私を磨く
「まつげを挟んで持ち上げるように」。化粧品情報サイト「アットコスメ」の通販部門を担うコスメ・コム(東京・港)のマネージャー、田島有希子さん(29)が指導するのは同サイトの広告営業部隊の男性たち。化粧品を使ってもらい、知識を深めて営業を円滑にすすめてもらおうと田島さんが開く「コスメ男塾」だ。
北里大理学部を卒業し設立8年目のアットコスメの運営会社、アイスタイル(東京・港)に入社。「1万分の1でなく100分の1にならないか」という吉松徹郎社長の言葉に心を動かされた。
配属早々通販モール内に支店を立ち上げ、2年目は楽天市場の支店長、翌年はモバイルサイト店長を経験した。「自分次第でお金や事業が動くダイナミックさがベンチャーの面白さ」(田島さん)。コスメ・コムを含むアイスタイルのグループ売上高は64億円。田島さんの入社以来6年間で5倍以上になった。
「会社を大きくするのは楽しい」と言う池田千紘さん(28)も新卒ベンチャー組。慶応義塾大経済学部を卒業後、設立3年のITベンチャー、Fringe81(東京・渋谷)に飛び込んだ。
同社はネットの広告技術に関するコンサルティング会社。成熟したマス広告よりも、枠組みさえないネット広告の方が「自分も会社も劇的に成長できる。仕組みを作り技術革新を起こすというベンチャーならではの仕事で認められたい」と池田さんは話す。今は執行役の下のマネジャーが空席。「続く女性たちのためにも、リーダー職の自分が早く上に行きたい」
ベンチャー企業は仕事と育児の両立支援策などが不十分な場合もある。財務基盤の強さや、給与水準では大手に及ばないケースも多い。ただ未成熟なだけに大企業より組織は柔軟で、女性が活躍できるチャンスも大きい。前例がないので新しい仕事をやりやすい。
閑歳(かんさい)孝子さん(34)は安定企業からベンチャーに転職した。ビジネス・IT系出版社で専門誌記者を3年半務めた後、ITベンチャーに転身。「記者の仕事内容はずっと変わらない。それより先の見えない環境の方が面白い」
知人に誘われたのは企業のウェブサイトを受託開発する会社だ。ここでプログラミングの技量を蓄え、起業したてのユーザーローカル(東京・目黒)に29歳で転職。社長と二人三脚でネットのアクセス解析ツールを開発した。
顧客が大手企業に広がるうちに「自分の母親も使えるサービスを手掛けたい」との思いが膨らみ、無料のオンライン家計簿サービス「Zaim(ザイム)」を個人で構築。このサービスを提供するZaim(東京・港)を起業、今年独立した。
ベンチャーで実績を上げ、ネット通販最大手、楽天の経営陣に就いた人もいる。同社執行役員でCSR部長を務める黒坂三重さん(46)だ。
短大を卒業後、設立2年目のジャガー・ジャパンに入社。顧客の経営者たちとつながりができ、社交性と営業手腕を見込まれてソフトウエア業界に転じた。1994年には米マクロメディアの日本法人立ち上げにかかわり、以降4年間はあらゆる業務を担った。会社の床に段ボールを敷いて寝泊まりすることもあったという。
「父親が厳格で地元の短大しか認めてもらえなかったが、仕事は思うとおりにしたかった」という黒坂さんにとって、ベンチャーは自分を鍛えるのに好都合だった。その魅力を「最初から最後まで1つの仕事の流れを把握できること」と話す。
様々な経験を経て「次は社長を体験するしかない」と考えた黒坂さんは、99年、ネット上のグリーティングカードサービスを提供する米ベンチャー、ワイノットの日本法人を設立。3年後に米本社から独立して、楽天傘下に入り、2003年には楽天の執行役員に就任した。06年から6年間は楽天市場事業の編成部長という要職で500人の部下を掌握するまでになった。
キャリアカウンセラーの藤井佐和子さんは「ベンチャー選びに重要なのは社長の姿勢。会社の理念や意義、使命を社員にしっかりと語れるか。この人のために働きたいと思えるか。そこを見極めて」と話す。
今回の4人は変化を好み、チャレンジ意欲が高い。目標達成のために戦略的に行動していることも共通する。自分らしく輝くにはいろいろな働き方がある。ベンチャー企業に入社してキャリアを積み上げるという選択もその一つだろう。
(福沢淳子)
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