綿江 美術品の総売上高約6.7兆円という数字は、約1.5兆円といわれる音楽市場に比べても大きな規模です。売り上げはオークションとギャラリーの割合が半々で、オークションの約13%を占めるのが現代アート。そのうち中国が33.7%、米国が33.72%を占め、現時点で若干、米国が勝ってはいますが、逆転は時間の問題でしょう。
ただ、英アートレビュー誌による美術業界実力者のランキング「2013 Power100」に選ばれた中国人作家は2人だけ。欧米の美術業界と市場とでは評価する作家や作品が異なるのが実情です。
美術品を資産とみなす中国
塩見 昨年開かれたオークションでは、美術品の落札価格として史上最高値の約141億円でフランシス・ベーコンの絵画「ルシアン・フロイドの3習作」が落札され話題になりました。その入札者にはアジア人も含まれていたといわれます。アジアに有力な買い手が増えていますね。
小山 そうですね。例えば、マレーシアでは8人ほどの有力コレクターが自国の現代美術を買い、地元作家を支援しています。また、インドネシア、シンガポールなどは国際的に知名度の高い作家を幅広く好み、投資目的だけではなくコレクションを趣味にする愛好家も増えています。
金島 中国や台湾では、美術品購入を資産運用におけるリスク分散の手段として考える人が多い印象です。自国の貨幣よりは名画を持っていた方がいい、という考えが根底にはある。同時に、彼らは投資目的だけで取引すると作品の価値が下がることも理解しているので、国際美術展を開いたり美術館を造ったりするなどしてグローバルな視点から自国の美術を価値づけしています。非常に戦略的ですね。
綿江 対して日本の美術市場がこれほど小規模なのは、美術品が資産として見なされていないからといえます。日本の美術品購入者を対象に購入理由を調査したところ、1位は「自分のため」、2位は「飾るため」。「資産として」は6%程度で10位以下という結果でした。
小山 バブル崩壊以前は日本にも資産という発想はあり美術市場も安定していました。今は美術館が多くできた一方、日本人は(美術に関する)お金の話を嫌う傾向もあって、バブル以前よりもその資産価値が低くとらえられているのは確かですね。