堀内 アジアの現代アートを読み解くために、まず、3つのキーワードを挙げてみます。
1つ目は都市を舞台にした大規模な「国際美術展」。横浜や韓国・光州など、1990年代後半から各地で増え続けています。
2つ目は「アートマーケット」。近年、香港、シンガポールなどが美術品の免税を背景に、富裕層や投資家を市場に呼び込んでいます。
3つ目は「オルタナティブ」の動き。例えば、インドネシアでは作家同士の草の根的な表現活動が盛んです。このように、その特色はひと言で表せない多様性がありますが、今回は特に東南アジアの最新動向についてお二人にお聞きします。
周辺国の美術品を買い集めるシンガポール
藪前 私は2013年、国際交流基金がシンガポールで開いた展覧会「Omnilogue:Your Voice is Mine」の企画にかかわりました。その際に目の当たりにしたのは、同国が物流や金融だけでなく、文化においてもアジアのハブになろうと様々な政策を打ち出していることです。港の近くに非課税の自由貿易地区を作り、美術コレクターやギャラリーを世界から集めています。軍事施設の跡地に作ったギャラリー街にも有名ギャラリーが出店していますし、美術教育にも力を注いでいます。
そして、何より重要な動きは、東南アジアの歴史をシンガポールの目線で作ろうとしていることです。既存の国立館であるシンガポール美術館に加え、来年には国立新美術館「ナショナル・アート・ギャラリー・シンガポール」ができる。マレーシアのアーキビスト(文化資料の管理・保存の専門家)は、インフラがなく国立美術館もない周辺国の作品をシンガポールがもっていってしまうと嘆いていました。東南アジア美術を収集し、美術史を今まさに作っているのです。
堀内 海外志向が強い一方、自国のアーティストやキュレーターへの支援が少ないとも聞きますが、実際はいかがでしたか。
自主規制による制約 海外へ移住する美術作家
藪前 シンガポールは一党が圧倒的な優位を占め、表現の自主規制も多い。現地のキュレーターは「アートは社会への批評として許容されている」と言いますが、それは建前もあるでしょう。美術作家たちに聞くと「制作しやすい環境ではない」と言っていて、その多くは海外へ移住しています。
また、国立美術館の企画展を見ても、観客や鑑賞者の成熟はこれから、という印象。わかりやすいテーマ、有名作家の作品など、まずは教育普及的な展示を求めているようです。
堀内 毛利さんはラオスから帰国されたばかりですね。なぜ、ラオスに行ったのですか。