大型連休もいよいよ後半。海外に足を延ばす人も少なくないだろう。そこで今回は前回に続き、「マンホールの謎」の海外編を紹介する。芸術品とも呼べるような逸品、職人技が光る渋い作品、思わず笑ってしまうようなユーモアや風刺が利いた作品などが目白押し。日本のマンホールの蓋のルーツとも思われる原形も見つかる。
海外の観光地巡りのついでに足元のマンホールの蓋にも目を落としてみると面白いかもしれない。
今回、協力してもらったのは、日本の「マンホールの蓋」研究家の元祖とも呼ばれるイラストレーターの林丈二さん。欧米に何度も旅行して撮影してきた7千~8千枚の写真の中から、まず造形の美しい6作品を選んでもらった。
独断と偏見で順位を付けて紹介しよう(写真は林さんの提供)。
■まるで芸術品、造形が美しい蓋は?
1位――バラ窓を思わせるような見事な装飾が美しい。ロンドンのセントポール大聖堂で見つけたそうだ。使い込まれた真ちゅうが落ち着いた輝きを放っている。「信仰のモチーフとしてよく使われる『生命の木』が3本寄り添っているように見える。所々に見えるのは十字架だろうか。見ていてもなかなか飽きない」。周囲の荘厳な雰囲気によくマッチした作品だ。
2位――権力の中枢であり、豊かな財政力を誇るカトリックの総本山らしい華麗な芸術品。「中央に見えるのはバチカンの紋章。表面に刻まれた文字は『ピオ12世』や『1943』という意味。おそらく1943年に作られたものだろう」。オリーブをくわえたハトにしゅろの葉の文様は平和や信仰の象徴。見ているだけで、何だか荘厳な気持ちになってくる。ちなみにピオ12世の法王在任期間は1939―58年。
3位――石炭穴蓋。ロンドンでは冬の暖房用に石炭を家の地下に貯蔵していたそうだ。「その出し入れ口につけた蓋は装飾も面白く、地元ではかなり愛好家がいる」。古道具屋でアンティークとして売買され、壁掛けなどに使う人もいるらしい。中央部に「COAL PLATE」という文字も見える。これ以外にも実に様々なデザインがあり、愛好家向けの書籍もあるという。
4位――大量生産ではなく、一品ものの注文仕立て。鋳造ではない。おそらく鉄職人が溶接して作ったのだろう。「デザインといい、匠(たくみ)の技といい、素晴らしい力量とセンスを感じる」。手間をかけるのを惜しまない職人の心意気が光る。見つけたのは北イタリアの都市マントバ。オペラ「リゴレット」の舞台となったことでも知られる美しい街だ。
5位――ローマの街角で「おや」っと立ち止まってしまったという。鉄なのに木目があるのだ。しかも、クギの頭らしきものも見える。「あくまでも推測だが、もともとは木製のマンホールの蓋だったが、鉄で作り直す際に原形の名残をとどめようとしたのではないか」。作り手のユーモアのセンスがちらりとのぞく。見た目が化石みたいなので「化鉄」と名付けた。なぜだか色合いや質感に和風の味わいも感じられる。
6位――格子模様が手前と背後に遠近感をつけている。これも大変な手間がかかる作品。「俺はここまでできるんだぞ」という職人の声が聞こえてきそうだ。「目立たないけれど、よく見ればそのすごさがジワリと伝わってくる。車に乗っている人のためではなく、街歩きを楽しんでいる人のために作った蓋」。かめばかむほど味が出るスルメのようだ。