2013/8/1

クローズアップ

――引き算の美学ですか。

斬新な見せ方で話題を集めたユニクロの「ライフウエア」展示会(東京都渋谷区)

「そう。だからデザイナーは大変です。僕はディレクターとしてデザインの方向性を決める役割ですが、若いデザイナーたちに『答えを出すならリサーチしろ』といいます。デザインをリサーチし、マーケットをリサーチし、テクノロジーをリサーチする。襟の形について『なぜこの大きさなのか理由を話せ』と問いかけます。『いいと思ったから』ではだめ。世の中のどんな動きをとらえることができたのか。いま、ジャケットやネクタイはこう変化している、だからこの襟になった。そう説明できた上で、デザインに工夫をしたかどうかが大切です」

「イッセイ・ミヤケにいたときからデザインとはリサーチが70%だと考えてきました。30%は応用で、そこに人が楽しくなる要素を入れ込む。ユニクロならばもっとリサーチの比重が高くてもいい。たとえばヒートテックの下着の襟ぐり。どのくらいの深さだったら胸ボタンを2つ開けても見えないか。そういう点をリサーチし、理解できていないとだめです」

――ユニクロは日本のものづくりならではの発想でしょうか。

「ヒートテックで使っている繊維もそうですが、日本には機能的な素材を作る力があります。一方でソニーのウォークマンやトヨタのハイブリッドカーのように、世の中に存在しない、こんなものがあったらいいんじゃないか、というものを生み出す才能がある。2つが合わさって、ヒートテックなどが生まれる。それを便利だと感じた世界中の人が買ってくれ、数がどんどん増えて1億枚のプロダクトに成長するのです」

「ライフウエア」2013年秋冬物の展示会(東京都渋谷区)

「柳井さんがパンストを例に挙げて『服が人の生活を変える』と話してくれましたが、とても影響を受けました。ユニクロのプロダクトにも機能と工夫が集約されています。ヒートテックは冬場の厚着から人々を解放しました。テニスプレーヤーの錦織圭さん、ジョコビッチさんらも機能性下着『エアリズム』を着用しているそうです。試合中に体温調整がしやすいという。すでに結果が出ています」

――では消費者の意識はどう変わってきましたか。

「身体への意識が明らかに変わったことで、ファッションの意味が変わってきていると思う。もはやファッションはステータスではなく、自分自身がステータスなのではないでしょうか」

「1980年代にメーンストリームを歩いてきたファッションですが、次第に香水、バッグ、靴や時計など周辺の『プロダクト』がステータスとなった。それが行き詰まると今度はエステティックサロンに行ったり、ジムに通ったりして、人々は身体をデザインし、創造する方向にシフトしてきた気がします。癒やしといった精神的なものを重視するのも身体に向いた同様の現象でしょう。こんな時代に、どんなファッションが生まれてくるのか。新しいカテゴリーのファッションが登場を待っているんじゃないか。それがライフウエアの考え方でもある。ライフウエアとはヒートテックやフリースといった12の『プロジェクト』でそれぞれのデザインや機能性を追求し、最適な着こなしまで提案するものです。服を自分の生活にどう合わせていくかということがテーマなのです」

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