――ユニクロのデザインディレクターとこれまでの服づくりとの決定的な違いは何ですか。
「ユニクロの場合、ひとくくりの人ではなく、国籍も性別も違うあらゆる人が相手です。服作りの前提が生産数1000万枚になることがある。時には1億枚のためのデザインがどうあるべきかを考えなくてはならない。ケタが違う。面白いし、ものすごい挑戦です。ファッションを知っている人だけではなく、ファッションの情報をそれほど持っていない人たちにも『いいね』と楽しんでもらえるかどうか。デザインに求められる完成度や精度が相当高くないと達成できません」
――イッセイ・ミヤケなどモード界で活躍してきた。違和感はありませんか。
「ファッションは、こういう風に着て下さい。いわば『I offer you(これはどう)』。新しい美意識はこうですとか、こういう風に生活を変えたらどうですか、と提案するものです。でも、ユニクロでは『As you like(お気に召すまま)』。シンプルな商品だからお客さんそれぞれが着方を工夫できる。お客さんの内側に入っていって発想しないといけない」
「初めて柳井さん(柳井正ファーストリテイリング会長兼社長)と話をしたとき、『服を勉強してきたあなたのような人が、なぜもっと多くの人のためにデザインしようとしないのですか』といわれました。デザイナーとしての喜びとは何か。ファッションショーで自分のコンセプトを理解し、評価してもらうのはもちろんうれしい。ただ、その後に人が自分の服を着ているのを見て『使ってもらっている』と感じられるのが、もっとうれしいことなんですね。ユニクロでは作ったプロダクトが生活の中に大量に入り込んでいる。自分が役立っている、と実感します」
――どのようにデザインを進めていくのでしょう。
「ユニクロとしてのビジョン、売り場での並べ方や色もデザインの要素として加味します。そしてプライス(価格)がデザインの一部。ユニクロにおいてはプライスは結果ではありません。価格があり、このディテールを残すか残さないか決める。たとえばパーカーならば何が一番必要か、と足し算、引き算します。デザイナーがよかれと思ってあれこれ付け足すと、コストが上がる。パーカーの役割は雨風をしのげること。であれば、ジッパー、ポケット、下から風が上がってこないようにコード(ひも)をつける。それが最低限でしょう」
「そうやって突き詰めてできた服は、とにかくピュア(純粋)なんです。デザイナーが一生懸命工夫してデザインした服もかっこいいし、楽しく着てもらえるのですが、ユニクロは本質的なものを求めていくからどんどんそぎ落とされ、最後にシンプルなものとして残る。ピュアなものは美しいんですよ」