ガンジス川に似ている荒川

ガンジス川を思い出す荒川

もう一つ、大きな要因がある。西葛西の西側を流れる「荒川」の存在だ。

「土手から眺めていると、なんだか、故郷コルカタ(カルカッタ)を流れる聖なる川、ガンジスを思い出して、心が落ち着くんです。河口が近いから川幅が広いでしょう。よく似てるんですよ……」。チャンドラニさんは遠い目をしながらしみじみとこう話す。

荒川の土手を散歩したり、河川敷でクリケットをして遊んだりするインド人も少なくないそうだ。

チャンドラニさんが西葛西で暮らし始めたのは79年ごろ。輸入した紅茶を保管する倉庫があったためだ。「当時は西葛西の駅ができたばかりで周辺は原っぱ。ポツリポツリと家屋があるだけだった」と振り返る。高層マンションや外食店、専門学校などが林立し、とてもにぎやかな今の街の風景と比べると「隔世の感」がある。

壁作らず日本に溶け込むインド文化

チャンドラニさんは「江戸川インド人会」会長も務める
インド食材店を経営するマリアッパンさん

西葛西駅の北側。UR賃貸住宅の1階で営業するインド食材店「TMVS FOODS」をのぞいてみた。広さは6畳間ほどと狭いが、店内にはコメや香辛料、調味料、スナック、インスタント食品などが所狭しと並んでいる。冷凍肉もそろっている。客層はインド人のほか日本人も多いそうだ。

「インド人が来日して最も困るのが食事です。宗教上の関係で様々な制限があるから自炊することも多い。でも食材がなかなかそろわない」とオーナーのピライ・マリアッパンさん。そこで09年に同店を開くことにした。来客も最初はインド人ばかりだったが、味を覚えた日本人が徐々に常連客になっているという。

インド人村の特徴は、インド人同士で壁を作らず、地元の日本人社会に溶け込んでいること。

その象徴が毎年10月末に開催するヒンズー教の祭り「ディワリ」だ。インド舞踊を披露したり、インド料理の模擬店などを出店するが、和太鼓も演奏される。「日本人との交流」が大きなテーマになっている。主催するチャンドラニさんは昨年の「ディワリ」で子ども連れの日本人夫婦からこんな声をかけてもらったという。

「江戸川区に住んで本当によかったです。おかげさまでこんなに楽しいお祭りを体験させてもらいました。ありがとう……」

思いも寄らない言葉だった。うれしかった。長年の苦労が報われた気がした。その親子連れの柔らかい笑顔が今でも忘れられないという。

異文化が解け合い、寄り添いながら、新たな街が形成されていく。

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