「結婚の先にある家族の幸せも応援」 伊藤綾さん
ゼクシィ統括編集長
柔らかな笑顔と小柄な体に情熱を秘める。結婚情報誌「ゼクシィ」で60人近いスタッフを束ね、多くのヒット企画を世に送り出してきた。一方で週の多くは午後5時ごろに仕事場を離れ、夫と分担して双子の男の子を育てるワーキングマザー。今のキャリアを築く道筋には3つの転機があった。
まず結婚と夫の転勤。「おしゃれですてきな本をつくりたい」と憧れて料理本の出版社に入り、編集者となって1年ほどのことだった。「夫と別居して働くという選択は思い浮かばなかった」
会社を辞めて3年間、専業主婦として過ごす。料理本のページをめくっていて気付く。「肝心な手順の写真がなかったり、あと一言の説明が足りなかったり。読み手に伝わっていない」。やり残した思いが募った。
夫の転勤から戻った2000年に一念発起。契約社員としてゼクシィ編集部に入ったが苦労の連続。「とにかく花嫁に一番会う編集者になろう」と歩き回った。
体形が細く見える花嫁衣装やお金の特集、彼にも結婚準備を意識してもらう男性向けの記事。読者の声と主婦感覚を武器に仕掛けた企画はやがて話題となり、06年には編集長を任された。残業の激務が当然になりかけた08年にまた転機が訪れる。出産だ。
赤ちゃんは無事生まれたが、自らは数万人に1人という心筋症で生死の境をさまよう。育児の大変さも想像以上。夜泣きを繰り返す子どもをあやしながら自問自答した。「自分の仕事は恋愛のゴールだけでなく、その先の家族の幸せも応援できていただろうか」
「自分にあるのは主婦経験や生活者目線だけ」。復帰後は働き方を変えた。かわいいデザインと実用性を兼ね備えた「可愛すぎるしゃもじ」や、お互いの呼び方や家事分担まで書き込める「妄想用婚姻届」などの付録は転機と挫折のなかで培った感覚から生まれた。
編集部員には「40歳の今日、あなたは何をしていると思う?」と問う。「子どもを産んでも辞めなくていい」から「家族と一緒に夕飯も食べられる」へ。自分の存在が後輩の選択肢のひとつになればと意識する毎日だ。
(河野俊)
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