男性だけで決めた偏った戦略は失敗する
ウルスラ・バーンズさん 米ゼロックスCEO
アメリカン・ドリームを体現した人だ。ニューヨーク市の貧困地区の出身、アフリカ系、女性という3つのハードルを乗り越え、1人の技術者から複写機メーカー、米ゼロックスの最高経営責任者(CEO)に登りつめた。複写機からサービスへの事業転換を主導しつつ、ダイバーシティ(人材の多様性)の重要性も強調する。
原点は幼少時、母から繰り返し聞かされた言葉。「今の環境が将来を決めるものではない」。貧しさをはねのけて可能性を求めることを説いた。厳格なカトリックの女子校に入学させ、娘を励まし続けた。シングルマザーとして強く生きた母は多くの「名ゼリフ」を残した。「受けた恩恵以上の結果を残す」は今は自分の口癖だ。
大学院まで機械工学を学び1981年、ゼロックスに入社した。当時、技術者にアフリカ系女性はほぼ皆無。ただ、それを特別に意識せず、「周囲も表向きは何も言わなかった」。一方で言われ続けたのが「若すぎる」。トントン拍子の出世の結果だ。技術者、女性と共通項を持つ先輩を探し、「複数のメンターからいいとこ取りをした」。
研究者の心構えを教わったのが、20歳年上のアフリカ系の男性上司。後に夫となり、働き盛りの妻を支えた。英国転勤に同行し、子どもが多感な10代になると退職。「うんと年上の男性と結婚するのが家庭と仕事を両立する秘訣」と笑いながら、「自動的に妻が辞めることが多いが、本当は夫妻が対等に話し合うべきだ」と漏らす。
日米の技術者を束ね、新製品の看板プロジェクトを主導した。日本側の責任者だった富士ゼロックスの山本忠人社長は「ダイナミックな決断をする人」と経営センスを評価する。その後も製造や調達部門など幅広い部門の責任者を歴任。アン・マルケイヒ前会長に後継指名され、2代続けて女性CEOが誕生した。
自身が示したように、「性別や人種を問わず、優秀な人材が登用されるべきだ」と主張する。「属性が似た男性だけで決めた偏った戦略は失敗する」と言い切る。CEOという存在感を生かし、「ダイバーシティが社会を良くする」との信念を説いて回っている。
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