がんを抱えながら働く 治療、職場の制度活用

医療が進歩するなか、病気を抱えながら働き続ける人が増えてきた。日本人の2人に1人がかかるというがんも例外ではない。早期発見すれば回復する人が多いのも背景にある。ただ治療期間は長く、心のケアや生活費など悩みは尽きない。がん経験者は治療と仕事をどう両立したのか。職場はどう受け止めたのか。

「病気で価値観が180度変わりました」。千葉県在住の平岡輝彦さん(44)は金融機関で激務をこなしていた2010年11月に肺がんが分かった。年明けには東京都内の病院に入院し、抗がん剤治療を始めた。副作用で頭髪は抜け、足の裏に水疱(すいほう)ができて歩けない。

「俺だけじゃない」

職場には病気を言い出せる雰囲気がなく、上司以外に病状を明かさなかった。結局退職を余儀なくされる。生活費はパートで働く妻の収入と傷病手当金。子どもの教育費や2千万円ほど残る住宅ローンを思うと不安が募る。「自分が死んで保険金が入った方が家族は苦労しないのではないか」とまで思い詰めた。

それでも家族の支えがあった。がん経験者の集いに顔を出し、似た境遇の人と話すと「俺だけじゃない」とも思えた。療養中の不安を少しでも和らげようと勉強に打ち込み、ファイナンシャルプランナーや証券外務員の資格を取得。手帳に闘病の記録をつづり、揺れる気持ちを整理した。

副作用が落ち着いた11年秋ごろから再就職先を探した。健康状態を問われると「がんの治療中」と答えた。不動産や金融、保険など70社超に応募したが、なかなか決まらない。「がんのためではと思い悩んだりもした」

知人の紹介で情報サービス業界への再就職が決まったのは12年春。がんに理解のある社長が「困ったことがあれば相談に乗る」と言ってくれた。「結果として休まず働けている。いつ再発するか分からない不安はあるが、本当に運がよかった」と振り返る。

埼玉県の会社員女性(39)は「これ以上働き続けられない」と感じている。復職後は周囲の理解もあって平日に通院するが、有給休暇を使っても足りない。「無理しないで」と担当のプロジェクトも外れた。「職場も自分を持て余しているのではないか。思うように働けなくて居づらい」

職場を変えざるを得なかった人は多い。アメリカンファミリー生命保険(アフラック)によるがん経験者の調査によると、半数超は依願退職や解雇などで勤務状況が変わった。全体の3分の1は収入が減少。職場にがんと伝えなかった人も3割近い。

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