お茶片手に医師と交流 医療カフェ、各地に広がる

健康や病気について住民が気軽に語り合いながら学ぶ場をつくる動きが各地で広がっている。名付けて地域の医療カフェ。医師ら専門家が立ち上げたほか、住民主催のものも登場している。受け身になりがちな医療を専門家任せにせず、自ら学んで理解を深めることが「転ばぬ先のつえ」の役割を果たしている。

高齢者が気軽に質問

「健康診断で中性脂肪が高いから医者に診てもらえと言われたが、どこに行けばいいのか」「診療所を紹介するので、受診しましょうね」――。埼玉県幸手市の幸手団地内にあるコミュニティーカフェ「元気スタンド ぷリズム」では、診察の合間にお茶を飲みに訪れた医師や看護師を相手に、高齢者が気軽に質問をぶつける。診察室で向かい合うときより、お互いくだけた雰囲気だ。

お茶を飲みに訪れた医師と住民が気軽に話し合う(埼玉県幸手市の「元気スタンド ぷリズム」)

コミュニティーカフェとは市民団体などが開設する喫茶店や食堂などの交流の場で、シニア層の孤立を防ぐ“たまり場”として近年、注目されている。地域の医療カフェはそうした場所などを舞台に、医療をテーマに据えて活動する集まり、といえる。

幸手団地の住民と医療関係者の距離が近いのは、団地横に昨年、東埼玉総合病院が移転開業したおかげだ。団地の約3千世帯のうち、65歳以上の高齢世帯は約3割。利用者増が予想されるため、病院は全戸を訪問、住民の健康状態を調べ上げた。在宅医療連携拠点事業推進室の中野智紀室長は「病院で待つのではなく、積極的に地域に入る必要があった」と振り返る。

そのうえで始めた事業が、健康促進や病気予防などを話し合う「暮らしの保健室 菜のはな」と銘打ったサービスだ。毎月1回開く地域・団体の数は今では10に増えた。12月中旬に「ぷリズム」で開いた会には、常連の50~90代の6人が参加。血圧計などを持って訪れた看護師を囲み、モチを喉に詰まらせた場合の対処法をテーマに話し合った。

定期的に参加している佐々木とし子さん(80)は「知識さえあれば、防げる病気や事故はたくさんある」と強調。初めて訪れたという女性(78)も「病院では看護師や医者となかなか気軽に話せない。こうした場は貴重」と話す。

島根県では4月に、看護師の矢田明子さん(33)が中心となり「みんくるカフェ イズモ」を立ち上げた。「みんくるカフェ」は、東大医学教育国際研究センターの孫大輔講師が編み出した医療カフェの仕組みで、医療関係者らの講義を聞いたあと、参加者が議論する。主催者育成講座も設けており、受講者が独自のカフェを開設できるようにしている。

現在毎月1回のペースで開く「イズモ」は、気軽に参加できるよう疾病や治療に関する専門的な話題は避け、健康づくりや介護予防などをテーマに話し合っている。話題を易しくしたこともあり、参加者の平均年齢は20代後半。一般の参加が多いのも特徴だ。

手遅れ減らしたい

矢田さんがこうした場を作ろうと思ったのは今から約7年前。民間企業に勤めていたころ、父が突然がんで亡くなったのがきっかけだった。身内が病気になって初めて、自身の知識不足を思い知った。「現在の医療体制は普段の暮らしからは縁遠い。島根県は山間部が多く、医療機関の数も限られる。一般市民が医療についてもっと知っていたら、発見時には既に手遅れという人を減らせるのでは」

勤務先を辞め、31歳で看護師の資格を取った。現在は医学部に進み、保健師の資格取得を目指す。「医療を身近なものにして健康促進につなげたい。より良い地域作りにもつながるはず」

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