マイケルが凋落? 米名前ランキング100年の変遷
編集委員 小林明

以前、このコラムで日本人の名前の流行の変遷について過去100年分を調べて、様々な法則があることを紹介したことがある。では、外国人の名前で何か興味深い傾向はあるのだろうか?
米国の社会保障庁の統計を詳細に分析してみると、やはり意外なトレンドが浮かび上がってきた。
そこで今回は、米国の男子の名前の変遷について取り上げる。もしかすると、名前を聞くだけで相手の生まれ年などを推測することができるかもしれない。少なくとも、米国人とのビジネストークや社交などには格好の話題となりそうだ。
ジェイコブ・メイソン・ウィリアムがトップ3
表1は2011年に米国で生まれた赤ちゃんの名前ランキングのトップ20(米社会保障庁調べ)。上位3位はJacob(ジェイコブ)、Mason(メイソン)、William(ウィリアム)。1999年以降、13年連続で首位を独占しているJacob(ジェイコブ)が1番人気。そもそも旧約聖書のイサクの息子でイスラエル民族の祖となるヤコブに由来する名前で、93年に9位とトップ10に食い込んで以来、安定した人気を維持している。

2位は最近、急上昇のMason(メイソン)。34位(2009年)、12位(10年)と一気に順位を上げた。これは「石工、石職人」を意味する名字だったが、近年は名前として使うのがトレンドになっている。3位のWilliam(ウィリアム)は昔から人気の高い名前として知られる。
ジェイデン人気は「ブリトニー効果」?
意外なのが4位のJayden(ジェイデン)。
02年までは100位以下のかなりマイナーな名前だったが、07年に18位に浮上してからは11位(08年)、8位(09年)、4位(10年)と上昇した。
実はこれには理由がある。米人気ポップ歌手、ブリトニー・スピアーズさんが06年に出産した次男に「Jayden James(ジェイデン・ジェイムズ)」と名付けたのがきっかけでブームに火がついたらしい。「有名人やその子どもの名前にあやかりたい」という親心は日本も米国も変わらないようだ。
マイケルが1949年以来初めて5位圏外に!
衝撃的なのはMichael(マイケル)の退潮。1954年から98年まで(60年は除く)首位に君臨してきた人気の高い名前の代名詞。44年間の首位は過去100年間で最長記録を誇る。
Michael(マイケル)は旧約聖書に登場する大天使ミカエルに由来する名前で、ポップ歌手のマイケル・ジャクソン、元プロバスケット選手のマイケル・ジョーダン、俳優のマイケル・ダグラスやマイケル・J・フォックスなど有名人は数知れない。
ところが最近は、その勢いにも陰りが見えており、順位は2位(2008年)、3位(09年)、3位(10年)とジリジリ後退。11年には6位となり、1949年以来で初めてトップ5圏外にはじき出されるという"歴史的事件"になった。長年、黄金時代を築いた名前といえども、時代の荒波に飲み込まれ、ついに流行の歯車が大きく回りつつあるといえそうだ。
5位に入ったNoah(ノア)は聖書にちなんだ名前で、「方舟」に乗って大洪水の難を逃れたことで知られる。2位のMason(メイソン)、4位のJayden(ジェイデン)などの躍進とともに人気ランキングに新風が吹き込んでいる格好だ。

では、過去100年(1912~2011年)の人気ランキングはどう推移してきたのだろうか?
表2は米国で生まれた赤ちゃんの名前(男子)の人気ランキング上位5位についての一覧表である。時代の移り変わりに応じて、名前の流行もそれぞれ変遷している様子がよく分かる。
ざっくり言えば、1番人気の名前はJohn(ジョン)→Robert(ロバート)→James(ジェイムズ)→Michael(マイケル)→Jacob(ジェイコブ)が大きな流れ。
時代別に特徴をまとめてみると……
●第1次・第2次世界大戦(~1945年)
John(ジョン)→Robert(ロバート)→James(ジェイムズ)と首位が変わるが、トップ5位はJohn(ジョン)、William(ウィリアム)、James(ジェイムズ)、Robert(ロバート)、Joseph(ジョゼフ)、Charles(チャールズ)、Richard(リチャード)などが常連。顔ぶれは比較的安定している。

●大戦終結・朝鮮戦争・ベトナム戦争(1946年~70年代)
James(ジェイムズ)→Michael(マイケル)と首位が推移。朝鮮戦争がぼっ発した50年ごろから勢いを伸ばしたのがMichael(マイケル)やDavid(デイビッド)。これらの代わりにWilliam(ウィリアム)やRichard(リチャード)が後退した。戦後の「ベビーブーマー世代」が生まれた時期にあたる。
●ベトナム戦争・冷戦の終結、一極支配(1970年代~2000年)
Michael(マイケル)が首位を独占する黄金期。ニクソン・ショックが起きた1971年ごろからChristopher(クリストファー)やJason(ジェイソン)なども台頭。80年代以降はMatthew(マシュー)やJoshua(ジョシュア)なども上位に食い込んだ。
●同時多発テロ以後(2001年~)

Jacob(ジェイコブ)がMichael(マイケル)から首位を奪取。Ethan(イーサン)の上昇も目立つ。直近ではMason(メイソン)、Jayden(ジェイデン)、Noah(ノア)などの新顔もランク入り。新たな潮流が生まれそうな兆しも……。
特徴を理解しておくと、例えば、Jacob(ジェイコブ)だったら「90年代末から流行し始めた今どきの名前」、Christopher(クリストファー)だったら「80~90年代にピークを迎えた名前」などと推測できる。James(ジェイムズ)だったら「40年代にピークを迎えた名前」、Richard(リチャード)だったら「30~40年代にピークを迎えた名前」などと見当がつく。
同じように日本人の場合では「大輔なら80年代に流行した名前」、「誠なら60~70年代に流行した名前」などと推理できる法則がある。こうした時代感覚によく似ているわけだ。もちろん法則にも多くの例外があるだろうが、知識として知っておいても損はない(日本人の名前の流行についてはこのコラムの過去の記事を参照してください)。

大まかな流れだけを簡単にチャートでまとめたのが表3。役に立つこともあるので、頭の片隅に入れておくとよいかもしれない。
「新鮮さ」が流行の原動力?
ところで、名前の流行の変化はどうして起きるのだろうか?
「名前学」の権威として知られる社会学者、スタンリー・リーバーソン氏によると、流行はメディアの影響などの「外的要因」で変わるが、「外的要因」がない場合でも、流行そのものが次の変化を生み出す「内的要因」が作用するという。だから、常に変わり続けるのだ。
例えば、ある名前の人気が高まると、その時点で新鮮さや珍しさが失われ、やがて陳腐化してしまう。そのため、目新しさなどを求めて別の名前に人気が移ってゆくというわけ。これは名前だけでなく、衣食住など幅広い分野での流行にも当てはまるメカニズムといえそうだ。
人気は「集中」から「拡散」へ

最後に、過去100年間の累計でトップ20を算出したランキング(表4)を見ておこう。
首位はJames(ジェイムズ)、2位はJohn(ジョン)、3位はRobert(ロバート)。一方、44年間も黄金時代が続いたMichael(マイケル)は4位にとどまった。昔から根強い人気を誇る古い名前の方が、やはり数としては多いようだ。
蛇足をひとつ。
昔は人気が特定の名前に集中していたが、現代に近づくほど人気がより多くの名前に分散する傾向があるようだ。年ごとに全体数に占めるトップ3の割合を調べると、13.7%(1950年)、11.0%(70年)、7.6%(90年)、2.8%(2011年)と、時を経るごとに大きく低下している。個性化の時代になり、好みが多様化していることなどが背景にあるとみられる。
次回(3月29日)は、続編として米国女性の名前の流行を紹介する予定です。
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