ウルトラシリーズで分かる「女性の社会進出」
編集委員 小林明
ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオ……。読者の中にはウルトラシリーズに懐かしい思い出を持っている方も多いのではないだろうか。
正義のヒーローが、次々に登場する怪獣や宇宙人たちを武器や技を駆使してやっつける勧善懲悪のストーリー。最後には必ずヒーローが勝つことは分かっているのだが、いつもハラハラドキドキ。手に汗握りながらテレビ画面にかじり付き、悪者との格闘シーンを夢中になって見守ったものだ。
女性隊員の職務、肩書に注目
ところで、このシリーズで意外に見逃せないのが魅力的な女性たちの存在。歴代のウルトラシリーズに登場する女性たちの設定を詳しく分析してみると、興味深い歴史が浮かび上がってくる。女性の社会進出に呼応するかのように、キャラクターや職務、ポストが大きく変貌を遂げているのだ。
連絡係→実戦に参加→女性隊長
初期段階の女性たちの職務では、やはり連絡係、お茶くみなどの雑用が圧倒的に多かった。だが時代が移るにつれて、男性と同じ危険な戦闘にも参加。ある段階から、初の女性隊長や女性だけの攻撃チームも誕生し、男性隊員をしのぐ活躍が目立ってくる。今や職歴や学歴が男性を上回るケースも珍しくない。時代を追うごとに「キャリア色」が強まっているのだ。
そこで今回は1966年(昭和41年)放映の「ウルトラQ」から今年7月15日放映開始の新シリーズ「ウルトラマンギンガS」までの全テレビシリーズ(アニメ、映画、ビデオ作品などは除外)に登場する女性たちを徹底検証してみることにした。
果たして、どんな変遷が読み取れるのだろうか?
写真はすべて(C)円谷プロ
表は歴代のウルトラシリーズの内容とそこに登場する女性の職務、肩書などをまとめた歴史である。「ウルトラQ」から「ウルトラマン80」まで、66年から81年まで(前半)の流れが一覧できる。
当初は通信(電話番)や雑用(お茶くみ)が主体
まず気が付くのは、ほとんどが通信担当という職務になっている点。いわば「オフィスの電話番」である。戦闘の最前線はもっぱら男性隊員に任せて、女性隊員は安全なオフィスで後方支援に従事するというのが基本的な設定になっている。
たとえば「ウルトラマン」のフジアキコ隊員(写真2)。通信を担当しつつ、男性隊員のために手料理やお菓子を配るなど優しい気遣いで職場を癒やしてくれる。「ウルトラセブン」の友里アンヌ隊員(写真3)は医療班兼務。平時はメディカルセンターに勤務しており、ナース服で男性隊員の健康を管理してくれる。どちらも職場のアイドル的な存在だ。
「ウーマンリブ」をきっかけに戦闘に参加へ
ただ、「帰ってきたウルトラマン」が放映された71年あたりから、女性隊員の役割にも変化の兆しが見えてくる。
たとえば「帰ってきたウルトラマン」に登場する丘ユリ子隊員(写真4)。基本的にはオペレーター・通信担当だが、剣道4段の腕前で戦闘にも積極的に参加し、男性顔負けの活躍をするようになる。メカの操縦や情報解析にも優れ、作戦会議でも積極的な発言を繰り返す。キャリアという地位こそ与えられていないが、男性に劣らない優れた能力を発揮する女性隊員として描かれているのだ。
折しも、米国で「ウーマン・リブ」と呼ばれる女性解放運動に火が付いたのが60年代後半。この流れが日本に上陸し、ウルトラシリーズにも影響を与えたと考えられる。
アイドル歌手ブーム、女性隊員の複数化へ
続いて「ウルトラマンエース」の南夕子隊員(写真5)。
男性の北斗星司隊員と互いの名を呼び合い、ウルトラマンエースに変身するという主役級の扱いに"昇格"する。女性隊員は、もはやお飾りのような職場の脇役ではないのだ。
「ウルトラマンタロウ」や「ウルトラマンレオ」になると、制服がそれまでのタイツからミニスカート(アイドル歌手ブームの影響)に変わるものの、戦闘機を操縦したり、実戦参加中に殉職したりするなど職務の厳しさは男性とまったく変わらない。
そしてこの時期から、組織内では女性隊員が1人しかいない「紅一点」ではなく、複数の女性隊員が勤務しているのが日常の風景となる。
社会情勢に合わせて、ドラマの中でも女性が活躍する舞台が急速に広がってきたわけだ。
写真はすべて(C)円谷プロ
後半の歴史も追い掛けてみよう。表は「ウルトラマンティガ」から「ウルトラマンメビウス」まで、96年から2007年までの流れをざっくりとまとめたものだ。
肩書、職歴、学歴も男性以上に
まず衝撃的な変化は、96年放映開始の「ウルトラマンティガ」。
イルマメグミ隊員(写真1)が、なんとシリーズ初の女性隊長になっているのだ。待望の女性上司の誕生である。特捜チーム「GUTS」ではすべての男性隊員が部下として働いている画期的な設定だ。
彼女の略歴を紹介しよう。36歳。元防衛軍特殊部隊の副隊長。科学者としても、パイロットとしても超一流。死別した夫との間に息子がいるが、自らの仕事が多忙のために別居を余儀なくされている……。この設定はもはや女性キャリアにほかならない。おそらく、人には相談できない心の悩みや揺らぎを抱えているのだろうが、職場ではつねに冷静沈着。強い責任感と卓越した洞察力で部下から全幅の信頼を集めている。そんな上司像が描かれているのだ。
もう1人の若手女性隊員ヤナセレナ(写真2)も隊員養成所を首席で卒業している22歳のエースパイロット。これもれっきとした女性キャリアである。男性隊員以上に活躍を期待されている逸材だ。
男女雇用機会均等法が施行されたのが86年のこと。世の中ではすでに女性キャリアも女性上司も珍しい存在ではない。そんな時代背景を反映させているわけだ。
副隊長、ハーフ、特殊技能も
以後、エースパイロットなどの職務は当たり前になる。98年放映開始の「ウルトラマンガイア」ではついに史上初の女性だけのパイロットチームも誕生。もはや男性も女性も関係なく、実戦でバリバリ活躍する時代に突入した。さらに、このシリーズではオーストラリア人とのハーフであるジョジー・リーランド隊員も登場。職場の国際化もさりげなくドラマに取り入れている。
01年放映開始の「ウルトラマンコスモス」や04年放映開始の「ウルトラマンネクサス」では、女性の副隊長(写真5、6)も常態化するようになった。また、06~07年の「ウルトラマンメビウス」では特殊技能を備えた女性隊員(写真8)も目立ってくる。これは派遣社員が増え、どんな職場でも活躍できる社員が求められるようになった時代背景とも重なる動きだと言える。
最新作となる「ウルトラマンギンガS」では杉田アリサ隊員が実戦におけるリーダー格という設定。特殊車両の運転にもたけている。最新作でも女性の社会進出の流れをきちんと受け継いでいるわけだ。
いかがだろうか? 子ども向け番組といえどもなかなか侮れない深みとウンチク、そして社会情勢の興味深い変遷がはっきりと読み取れるのだ。
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