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LVMH、不動産会社がなぜブランド帝国に? 編集委員 小林明

2013/1/11

ミッテラン・ショックが一段落した84年のことだった。アルノー氏が突然、老舗ブランド、クリスチャン・ディオールを所有する仏繊維会社ブサックを買収したのだ。

「アルノーとは何者だ?」「なぜ不動産会社がファッションに?」――。パリのファッション界に突如、登場した無名実業家にフランス経済界は騒然となった。

当時、クリスチャン・ディオールのほか、新聞社、銀行なども所有していたブサックは、すでに放漫経営から資金難に陥っていた。アルノー氏の狙いは最初からクリスチャン・ディオールだった。ニューヨーク時代に知り合った仏投資銀行ラザールの実力者、ベルンハイム氏が資金面の後ろ盾になっていたとされる。

■きっかけはタクシー運転手との会話

面白い逸話がある。

70年代、初めてニューヨークを訪れたアルノー氏がタクシーに乗ったときのできごとだ。

「ねえ、フランスについて何か知っているかい?」。アルノー氏が興味本位で運転手に尋ねてみると、運転手はこう答えたという。

「フランスだって? 大統領の名前さえ知らないよ。ただ、クリスチャン・ディオールという名前だけは聞いたことがあるな……」

この経験から、アルノー氏はひそかにファッションビジネスに興味を持つようになったそうだ。クリスチャン・ディオールを買収したアルノー氏はフランスに帰国し、高級ブランドを買収し続ける。ルイ・ヴィトン、ロエベ、セリーヌ、ジバンシィ、ケンゾー、ゲラン、フェンディ……。買収を繰り返し、巨大なブランド帝国を築き上げた。

■不動産とブランドの共通点

不動産とブランド――。「一見、脈絡がなさそうに見えるが、明らかな共通点がある」。バーク氏はこう明かす。実は、どちらも高所得層を対象にしているのだ。

「米国では高級コンドミニアムなどを建設し、個人の金持ちに売りさばいていた。だから、我々は高所得者層の嗜好(しこう)を熟知している」。高所得者層の購買動機は決して機能だけではない。手に入れた後に自分が世の中からどう見られるのか。社会的な地位や社交、自己満足なども関係してくる。不動産もブランドも同じなのだ。

「だから、不動産事業からブランドビジネスに移行するのも自然の流れだった」。高級ファッションしかり、時計や宝飾、香水、酒しかり。すべての対象顧客はセレブなのだ。

こうしてLVMHは形成された。

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