女性登用、企業がすべきこと ロエベCEOに聞く
リサ・モンタギュー氏
――働く上で女性は不利だと感じたことがありますか。
「長く管理職をやってきましたが、女性だから扱いが違うな、と思ったことは一度もありません。25歳の時にセルッティ1881というブランドでマーケティングセールスディレクターという肩書を持って以来、いつも部下がいました。最初に勤めたビッグカンパニーであるマルベリーでは2003年に最高執行責任者(COO)に就任し、ブランドの再構築を手掛けました。LVMHグループに移り、ロエベCEOに就任したのは09年9月です。これまでバリアを感じたことがないというのは本当にラッキーだと思います。とはいえ、世界的に女性をとりまく環境は改善されつつも、まだ問題があることは理解しています。企業がどうサポートしていくかが課題だと思います」
――LVMHグループにはどんな女性支援策があるのでしょう。
「このほど新しい女性エグゼクティブ養成プログラムが本格的にスタートしたところです。名称は『Elles(L)VMH Coaching Program』。フランス語で女性を表す"Elles"とLをかけたものです。LVMH社のベルナール・アルノー社長兼CEOと人事部門の女性ディレクターが中心となって企画し、当初は私のほか、クリスチャン・ディオールなどグループ内各社の女性経営幹部十数人に声がかかりました。今ではグループ内のさまざまな女性管理職が参加しています」
「2011年、欧州委員会はEU圏内の企業に対し、20年までに女性役員の数を40%に自主的に高めることを誓約する『Women on the Board Pledge for Europe』への参加を呼びかけました。これにLVMHが調印したことがプログラム導入のきっかけです。アルノー社長らは上級管理職(エグゼクティブポジション)以上の女性をもっと増やすべきだという明確な意志を持って取り組んでいます。既にロエベでは1000人ほどいる社員の半数以上が女性で、マネジャー以上の女性管理職比率も66%に達しています。こういう環境で働けるのは幸せだと思います」
――女性たちはどんな壁にぶつかっているのですか。
「ロエベ本社のあるスペインやポルトガルでいいますと、女性たちは自らがステップアップしたときに、バリアがあるのか、ないのかをとても気にしている。昇進した時に待ち受けている問題が見えない、ということに恐れがあるようです」
――プログラムでは、その不安を解消するのですか。
「たとえば、対話によって指導するメンタリングプログラムがあります。メンター(指導者)が一人ひとりの状況や悩みを聞いて、情報を与える。打ち解けた関係の中で、情報を共有し、対等に話し合い、次のステップに進むためにどのようなサポートが必要かを考えていく。そうすることで不安が取り除かれていくのです」
「『EllesVMH』は社内の女性コミュニティーの基盤といえます。個々人のアイデアや経験を公開する場を設けているほか、グループディスカッションやさまざまなセミナーも企画しています。私も2つのセミナーを企画しました。1つはパラリンピックで金メダルを取ったスペイン人の水泳選手の講演。大きな挑戦をなし遂げた人の話を聞くと、謙虚な気持ちになれます」
――2人のお子さんを育てながら、英国からスペインへの転勤を決断したのは、あなたにとって挑戦だったのでは。
「結婚が遅かったので子どもはまだ9歳と6歳です。キャリアと家族生活のバランスをとりながらCEOになることは、確かに一つの挑戦でした。でも、いつでも自分を頼りにしてくれる存在がいるのは、気分がよいものです。仕事は家に持ち帰らないのが私のルール。どこにいっても最低限、ブラックベリーとiPad(アイパッド)で家族と連絡を取れるようにしています。東京では、いま日本のスター、今井翼さんと一緒にいるよ、と写真を送りました」
「私がキャリアと家族生活の両立を当たり前のように続けているのは、ビジネスウーマンだった母の影響が大きい。私の同世代の親としては珍しくキャリアウーマンでパワフル。私には子どものころから常に家にメンターがいた。ロールモデルはだれかといわれれば、間違いなく母ですね」
「もちろん、夫の理解も大きい。ロエベから声がかかったとき、夫は仕事をやめて、スペインに一緒についてきてくれた。とても理解のあるよい夫なのです」
――よき母であり、妻であり、有能なビジネスウーマンであり続ける。大変だと思ったことはありませんか。
「写真映りに気を配らねばならないのは、女性役員にとってちょっとやっかいな問題だと思いますが、こうあらねばならない、というステレオタイプのイメージにプレッシャーを感じたことはありません。女性たちに伝えたいのは自分を大事にすること、今やっていることに100%の力を注ぐこと。何よりも仕事を楽しむこと。私自身、仕事が好きで、家族を愛しているからこそ、両方のバランスをとることができるのだと思います。よく食べ、よく眠り、よく生活を楽しむのも忘れずに」
「ロエベの代表的なバッグ『アマソナ』は女性の強さをイメージして作られました。1975年生まれだから30代後半、つまり今がまさに働き盛りの商品。スペインの多くの女性がアマソナをファーストバッグとして購入しています。日本でいう『ごほうび』のように、自分を褒めたり、応援したりするため、ブランド品を買うのは、世界中の女性に共通しているようですね。実は私もそんな買い物をします。よく靴を買うのです。これも生活の楽しみの一つですよね」
(聞き手は女性面副編集長 松本和佳)
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