五輪メダル争い、世界での日本の立ち位置は?
編集委員 小林明
17日間の熱戦を繰り広げた冬季五輪ソチ大会。日本は男子フィギュアスケートの羽生結弦選手が金メダルを手にしたほか、スノーボード男子ハーフパイプで平野歩夢選手、ジャンプ男子ラージヒルで葛西紀明選手が銀メダルに輝くなど金1、銀4、銅3個の計8個を獲得。冬季では1998年長野五輪の10個に次ぐメダルを手にした。
では、過去の冬季、夏季五輪での日本の獲得メダル数はどのように推移してきたのだろうか? メダル獲得に力を入れる韓国などと比べながら振り返ってみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。「スポーツ立国」を目指す日本の世界での立ち位置を探ってみた。
中・韓の後じんを拝する日本
まず現状の金1、銀4、銅3個の計8個は世界でどんな位置付けだろうか?
メダル総数のトップはロシアで33個。次いで米国28個、ノルウェー26個の順。アジアでは中国が9個、韓国が8個。日本は韓国と並ぶ8個で世界では12位という位置付けだ。
一方、金メダルの獲得数で見ると、ロシア13個、ノルウェー11個、カナダ10個の順。アジアではそれぞれ3個で並ぶ中国と韓国の後じんを拝しており、世界では17位につけている。
「ソチ五輪では日本は92年アルベールビル大会の7個を上回り、98年長野大会の10個に次ぐメダルを獲得するなど健闘した。だが、金メダルの獲得は1個にとどまり、長野大会の5個には遠く及ばなかった」。これが現状の評価だ。
続いて、過去の推移をさかのぼってみよう。冬季五輪の日本のメダル獲得状況を表にすると、さらに大きな流れが見えてくる。
獲得数が一気に増えたのは、選手強化策が実り始めた92年のアルベールビル大会。72年の札幌五輪を除くと、1大会で2メダル以上を獲得できずにきたが、92年のアルベールビル大会では金1銀2銅4の計7個を獲得。続く94年のリレハンメル大会では金1銀2銅2の計5個を獲得し、98年の自国開催の長野大会で金5銀1銅4の計10個を獲得してピークを迎える。
だがその後は低迷が続く。
2006年のトリノ大会では金1個にとどまり、代わって力を付けてきた韓国に大きく水をあけられてしまう。14年のソチ大会でその韓国にメダル総数でようやく追い付いた状況だ。
効率重視の韓国、ショートトラックでメダル約8割
そもそも人口規模でも経済力でも日本より小さい韓国に、日本はなぜ負けているのだろうか?
メダル獲得の内訳を競技別に日韓で比較すると、意外な事実が浮き彫りになる。
日本はスキージャンプとスピードスケートでそれぞれ全体の3割程度を獲得。フィギュアスケートやスキーノルディック複合などでも健闘しており、ウインタースポーツの裾野は徐々に広がっている様子がうかがえる。
一方、これとは対照的なのが韓国。実に約8割をショートトラックが占めるという特異な構造なのだ。
「言い方は悪いが、大国がしのぎを削るメジャーな種目では勝負せず、メダルを比較的取りやすいマイナーな種目に狙いを絞ってメダルを効率よく量産するのが韓国の戦略」。スポーツ関係者はこう分析する。
確かに韓国人選手が活躍する種目はかなり限られているという印象が強い。メダリストには兵役の免除などもあり、メダル至上主義が日本よりも徹底しているようだ。より多くの種目での選手育成を目指している日本とはかなりスタンスが異なっている。
では夏季五輪はどうか? 日本のメダル獲得状況の盛衰を追い掛けてみよう。
推移をたどると、日本は64年の東京五輪をピークに黄金期を迎えていることが分かる。東京五輪は金16銀5銅8の計29個。ボイコットしたモスクワ大会を除くと、84年のロサンゼルス大会まで総数で約30個、金メダルで約10個の水準を維持し、一定の存在感を保ってきた。
ソウルで低迷、アテネで復活……
だが、状況が一変したのが88年のソウル大会。
ソウル五輪での日本のメダル獲得は総数で14個、金メダルで4個とそれまでの半分程度に減少。一方、韓国が総数で33個、金メダルで12個と大幅に増やし、互いの立場が逆転した。逆に韓国はその後もメダル総数約30個、金メダル約10個を維持し、日本の黄金期の水準を引き継いだ格好だ。
日本がようやく盛り返したのは04年のアテネ大会。
「低迷を脱却しようと国内の強化施設の充実や海外遠征による情報収集などが奏功し、躍進するきっかけをつかんだ」(文部科学省競技スポーツ課)。アテネ大会ではメダルの総数で37個と過去最高、金メダル数でも16個と東京大会とならんで過去最高を達成し、メダル総数でも、金メダル数でも韓国を上回り、ひとまず一矢報いた。
目を引く英国の躍進ぶり
ちなみに、国別メダル獲得数の推移で特に目を引くのが英国の躍進ぶり。
96年のアトランタ大会では15個(金1個)で日本の14個(金3個)とそれほど違いはなかったのに、00年シドニー大会の28個(金11個)、04年のアテネ大会の30個(金9個)、08年の北京大会の47個(金19個)、12年ロンドン大会の65個(金29個)と飛躍的に増加。97年に文化省傘下に設立された統括組織「UKスポーツ」が国営宝くじの収益金などを財源にした強化策に取り組んでおり、「選手育成の1つのモデルケース」と受け止められている。
競技別に金メダル獲得数を追い掛けると、日本がどうやって種目で金メダルを獲得してきたかがよく分かる。ざっくり言うと、「陸上・水泳」→「体操」→「柔道・レスリング」という大きな流れだ。
戦前の日本のお家芸は陸上と水泳。28年アムステルダム大会で三段跳びの織田幹雄選手、男子200メートル平泳ぎの鶴田義行選手が金メダルに輝いたのを皮切りに、陸上と水泳でメダルを次々に獲得した。
一方、東京五輪のころの黄金期を支えたのは体操・柔道・レスリングの3競技。そのうち「体操ニッポン」は88年のソウル大会以降、やや衰退してしまうが、柔道・レスリングは日本のお家芸として金メダリストを生み出し続けている。
柔道・体操・レスリング・水泳で金の9割
過去の夏季五輪で日本が獲得した金メダル数は130個。競技別で最も多いのが柔道で36個。体操29個、レスリング28個、水泳20個を含めた上位4競技で全体の9割近くを占める。つまり「日本は歴史的に柔道・体操・レスリング・水泳が強い国」と言うことができる。
一方、韓国の金メダル数81個の内訳を見ると違う傾向がうかがえる。
最も多いのがアーチェリーの19個で全体の4分の1。次いでレスリング11個、柔道11個、テコンドー10個が上位4競技。これに射撃6個、バドミントン6個を含めると、上位6競技で全体の8割近くを占める。
柔道、レスリングなどの格闘技が強いのは日本と似ているが、アーチェリーや射撃、バドミントンでも多くのメダルを獲得している点は日本と異なる。一方、日本が多くのメダルを獲得してきた陸上や水泳では韓国は金メダルをそれぞれ1個ずつしか獲得していない。
ここでも韓国の「効率的なメダル戦略」が機能しているようだ。
トレセン効果が出たロンドン五輪
最後に、12年のロンドン五輪で日本が好成績を残した理由について説明しよう。
金メダル数こそ7個にとどまったが、日本は総メダル数で04年のアテネ大会の37個を上回る過去最高の38個を獲得。選手層の大幅な底上げに成功した。「これは、08年に全面供用されたナショナルトレーニングセンター(NTC)などの効果が大きい」(文部科学省競技スポーツ課)という。
ナショナルトレーニングセンターは東京都北区に開設したトップレベル選手向けの日本初のトレーニング施設。フォーム解析用のカメラを備えた屋根付きトラックや多目的トレーニング場、宿泊施設などを備えており、本格稼働してからロンドン大会が初の五輪となった。その効果が早くも結果に出たわけだ。
日本政府は東京五輪でのメダル目標について「金メダル25~30個、総メダル数70~80個」としており、世界ランキングで3~5位に食い込むことを目指している。スポーツ庁構想やトレセン拡充、ターゲットエイジ(16~20歳)の育成策なども動き出している。
何もメダルの獲得数だけがスポーツの醍醐味ではないし、いびつなメダル至上主義を見習う必要もない。だが、どうせ観戦するなら日本人が伸び伸びと実力を発揮し、メダル争いに絡む姿をできるだけ多く応援したいもの。日本勢のさらなる活躍を期待したい。
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