待ち受けになぜ「地球」 iPhone生んだジョブズの哲学

2013/11/8
年間1億台を売るiPhoneをはじめ、最新技術と高いデザイン性を併せ持つ製品でIT業界をけん引してきたアップル。その人気を支える創業者スティーブ・ジョブズ氏の製品哲学は何によってつくられたのか。映画「スティーブ・ジョブズ」の試写会(10月24日、日経ホール)に合わせ、産業技術総合研究所の江渡浩一郎氏とフリーランスジャーナリストの林信行氏に、ジョブズ氏に影響を与えた事柄や人物について、ITの歴史とともに解説してもらった。(以下、敬称略)
林信行氏(左)と江渡浩一郎氏

感動的スピーチの元ネタとは

江渡 2005年、スタンフォード大学の卒業式でのジョブズのスピーチはご存じの方も多いのではないでしょうか。とくに有名になったのは最後の言葉「Stay hungry. Stay foolish.(ハングリーであれ。愚か者であれ。)」。まさしくそれは「WHOLE EARTH CATALOG(全地球カタログ)」(1968-71)という本の最終号の裏表紙に書かれた言葉でした。この本を作ったのはスチュアート・ブランド。創刊号のカバー写真には地球が浮かんでいます。このイメージは初代iPhoneの待ち受け画面にある地球の写真に似ていると思いませんか?

 ジョブズはその本のことを「青春時代のグーグルだった」と言っていたぐらい、考え方に非常に影響を受けています。

江渡 そうですね。この本は実際に買えるものを紹介するという、名前の通りのカタログでした。ただし、中身はかなり濃い。例えば、バックミンスター・フラーが書いた本を紹介するページでは通信販売の体裁をとりながら、その思想まで詳しく解説しています。

「WHOLE EARTH CATALOG」最終号の裏表紙に書かれた「Stay hungry. Stay foolish.」の言葉
「WHOLE EARTH CATALOG」創刊号の表紙

 ブランドはシリコンバレーに哲学的な背骨をつくった人物と言えますね。シリコンバレーのIT企業は毎年、何十という新しいテクノロジーを発表していますが、その多くは1年後には世に忘れ去られてしまう。それに対して、ブランドは現在、ロング・ナウ協会という組織を興し、千年、1万年単位の未来に対して責任を持って行動しよう、という方針の下で様々な文化的プロジェクトを展開しています。

技術革新のバトンリレー

 ジョブズがアップル復帰後に作った広告キャンペーンの中にもブランドの影響がうかがえます。「Think Different」というスローガンを掲げて詩を作り、ジョブズは「(世界を変えようとする)クレージーな人たちが人類を前進させた」という一文を書いた。そして社内で配ったロングバージョンでは、「アップルはその人たちのために道具を作る」と書き足している。やはり、一歩一歩、新しい文化をつくっていこう、人類の文化が発展するように長期視点でモノを作ろう、という考え方がそこに感じられます。

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