池袋に集う今ドキ女子 胸キュン「乙女ロード」
副都心線繁盛記(3)
新宿、渋谷など「副都心」といわれる街のなかでも地味な印象がぬぐえなかった池袋。その池袋に若い女性が集うようになった。アパレルや飲食など、新しい店も増えている。きっかけはアニメに代表されるサブカルチャー関連の商品を扱う店の集積だ。東京メトロ副都心線と東急東横線の相互直通運転開始で、この流れに拍車がかかっている。
■キャリーバッグを引いて
池袋駅の待ち合わせ場所といえば東口地下の石像「いけふくろう」だ。そこから地上に出て、「サンシャイン60通り」へと多くの人が歩いていく。このごろは人の流れに若い女性が増えた。キャリーバッグを引く姿も目立つ。話を聞けばアニメキャラクターを模したコスプレの衣装を入れるためのバッグだという。
渡った先にあるのは通称「乙女ロード」。主に女性をターゲットにしたアニメ関連商品を扱う店が軒を連ねる。
「今どきの女子ばかりでしょ? いわゆるオタクじゃない」
コスプレ衣装店をこの通りに構えるアニメイト(東京・板橋)の小山幸男・経営企画室次長は指摘する。
この衣装店の上階にはアニメ作品とコラボした飲食店もあり、女性同士で食事を楽しむ姿でいっぱいだ。
女性の支持を受け、個性的な店が乙女ロードから飛び出し、池袋全域へと広がり始めた。アニメイトは創業の地である乙女ロードにコスプレ衣装店を残し、ほかのアニメグッズを扱う池袋本店を豊島区庁舎付近へと2012年11月に拡張移転したばかり。ところが、ここ1年で来店客は急速に増加。店内は常に混雑し「もう手狭になった」(小山氏)。
週末になると店舗からはみ出すように区庁舎前の中池袋公園で若い女性が集まる。かつては近隣の電器店などに来る男性の姿が多かったが、今や若い女性の交流の場。アニメの缶バッジなどグッズ類を交換している。埼玉県在住の女子中学生が「楽しいので頻繁に来ている」と話してくれた。
■店舗賃料は急上昇
「地味な新宿」のように思われていた池袋。副都心線と東横線の相互直通運転をきっかけに、ひそかに磨いてきた個性が真価を発揮し始めた。広域から若い女性が集まるようになり、店舗募集賃料はここ1年で急上昇している。
不動産関連データを分析するアトラクターズ・ラボ(東京・千代田)によると、現在の池袋の賃料は1カ月、1坪(約3.3平方メートル)当たり約2万9000円と、昨年から16%上昇。新宿には及ばないものの、2万6000円弱の渋谷を上回る。
アニメイトに刺激を受けたナムコは昨年秋、区庁舎近くで女性に人気のアニメ「タイガー&バニー」の世界を内装やメニューに反映した喫茶店「キャラクロ」を開いた。アニメが描く、イケメンヒーローの活躍する近未来に入り込める演出がたくさんあり、店員も「ありがとう、そしてありがとう」とヒーローの決めぜりふを織り交ぜ接客する。
サンシャインで家族層向けの施設「ナンジャタウン」を運営する同社。女性向けに特化した新業態を開くのは挑戦だったが、狙いはズバリ当たった。来店客の95%が女性。1日5交代の同店は常に満席で、予約の抽選倍率は何と8倍。桑原大輔プロデューサーは「ここまでヒットするとは思わなかった」。
乙女ロードにコスプレ衣装店など7店を持つケイ・ブックス(東京・豊島)。この1年で購入客は5%増加。ただ来店者数はそれ以上に伸びており、将来の顧客と期待する。池袋で現在8店を経営するが「10店でも20店でも出したい」(大塚健会長)と強気だ。
人気なのはコスプレだけではない。同社が運営する「執事喫茶スワロウテイル」。アニメに出てきそうな執事の衣装を着た男性店員が女性客を「お嬢様」と呼び、ケーキや紅茶を出す喫茶店だ。
「個人的な会話はしません。お嬢様はこの世界観を楽しむ。私は調度品の一つ」と話す店員の1人は「横浜方面を含め、客層の裾野は広がっている」と話す。
女性の関心事はアニメだけにとどまらない。同社はミュージカルや男性アイドルなどのグッズ店も池袋に構える。「いずれは劇場やホテルも開きたい」という。
■ファッション業界も注目
異業種の注目も集め始めた。3月14日、サンシャイン60通りに都内でも有数の大型店を開くユニクロ。この場所を選んだ理由について「ファッションだけでなくアニメなど女性の好むコンテンツが密集する魅力」と担当者。「渋谷と秋葉原の両方を一遍に楽しめる池袋に女性が集まり始めた」と注目する。
中池袋公園の隣に地上8階建ての商業施設「WACCA」を9月開業する不動産開発の栄真(東京・文京)。主なターゲットである女性を、あの手この手でもてなす。上層階には結婚式場を誘致、手芸店や音楽教室もテナントに招く。キッチンスタジオを設け、料理教室や郷土料理のPRイベントなどを開く計画だ。
周辺は電器店や区庁舎で「若い女性をターゲットにするなんてこれまでなら考えられなかった」と同社の籏栄一郎社長。特にアニメイトの集客力に注目しており、アニメに登場する料理を再現する教室も検討している。「新しい流れを生かさない手はない」
アニメがひき付けた若い女性を狙って異業種が集まる相乗効果に専門家も関心を抱く。日本不動産研究所の古山英治主任専門役は「新宿や渋谷より動きが鈍かった池袋に変化の兆しを感じる。例えばファストファッションの集積地になれるかもしれない」と期待の目を注ぐ。
副都心線と東急東横線の直通運転で「通過されていると悩む渋谷の路面店は多く、池袋に目を向ける企業は少なくない」と不動産サービスのシービーアールイー(東京・港)の藤田祐介・アソシエイトコンサルタントは明かす。
池袋を擁する東京都豊島区も動き始めた。区庁舎を現在の東池袋から南池袋に移転するにあたり現在の庁舎と隣にある豊島公会堂を一挙に建て替え、1300席超の大型劇場を開く計画を立案した。高野之夫区長は女性に人気の高い宝塚歌劇団を誘致する交渉を始めたほか、中池袋公園に向けてアニメを流す大型モニターの設置も検討している。
新宿にも渋谷にもない魅力が、池袋の街に生まれているのは確かなようだ。(桜井佑介)
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