十分盃には色々な種類があり、コレクターもいる。長岡市内では県内最大手の朝日酒造が少数ながら十分盃を展示している。全国的にも知られた「久保田」の酒蔵である同社は、本社となりにある売店を最近建て替えばかりで、その一角に十分盃が飾られている。

最後は歌で締めよう。

~めでたいものは   大根種 大根種   花がさきそろうて

実のやれば   俵重なる

地域に伝わる祝い歌の名をもらった魚沼酒造の「天神囃子」

雪深いことで知られる十日町市。ここで開かれる宴席に初めて出た人は、始まって間もないうちに1人が音頭を取り、皆がそれに唱和するのを見て戸惑う。ゆったりとしたペースで歌われるのは地域最古の歌謡とされる祝い歌、「天神囃子(ばやし)」だ。

元は全国各地で知られていたというが、十日町市では今なお日常的な宴席で歌い継がれている。高齢者だけでなく青年会議所の会合などでも耳にすることがある「生きた習俗」。「これを歌うまで席を立ってはいけないのがルール」と、十日町市に本社を置く魚沼酒造の山口勝由社長は説明する。歌い終わればそこからは無礼講だ。

魚沼酒造は30年ほど前から「天神囃子」を自社で造る日本酒の銘柄名としている。「地元では宴席の終わりに歌う歌もあるが、最初に歌う方がいいと考えて天神囃子にした」(山口社長)という。淡麗辛口の日本酒が多い新潟県だが、天神囃子はむしろ味わいの強い「旨口」(うまくち)系。主に市内で飲まれているが、市外や県外にもファンはいる。

新潟県内には地域性の強い日本酒がいくつもある。幸い今は、酒を味わい、地域を味わうのにふさわしい季節。酒を取り巻く文化まで思いを巡らせながら、今夜もまた一献……。

(長岡支局 水口博毅)

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