蔵巡りから不思議な杯まで 越後・冬酒物語

吉乃川(長岡市)には見学施設「酒蔵資料館 瓢亭」がある

全国でも1人当たりの日本酒消費量が最も多い「地酒王国」新潟県。90を超える酒蔵が造る日本酒は、「淡麗辛口」の一言には収まらないほど多様で豊穣(ほうじょう)だ。その背景には地域の特色ある歴史や習俗、風土が息づいている。逸話を追いながら、雪見酒としゃれ込みたい。

いざ、酒蔵へ

日本酒好きの訪問者にとってうれしいのは、有名な酒蔵がレストランや売店を備えた観光用施設を整備していることだ。一般にはあまり流通していない希少な地酒を買ったり、日本酒によく合う創作料理を楽しんだりできる。

「施設がオープンした昨年7月以降、売上高が3割伸びた」。「八海山」で知られる八海醸造(南魚沼市)の南雲二郎社長は、15億円を投じて整備した新施設に手応えを感じている。以前から飲食店などがあった「魚沼の里」に、雪を貯蔵して日本酒などを冷やす雪室、地元の農産物などを扱う売店、さらに料理教室に使える建物を新たに設けた。

「魚沼の里」に新たに建設された八海山雪室は、約1千トンの雪を使って日本酒や地元で取れた野菜を保存する。貯蔵スペース以外にも物販店「雪室千年こうじや」を設置。同社の日本酒や甘酒だけではなく、魚沼地域の発酵食品や熟成肉なども販売する。地域の食材を使った料理のデモンストレーションを行う「ユキナカキッチン」、麹(こうじ)ドリンクなどを提供する「ユキムロカフェ」、台所雑貨を販売する店舗「okatte」もある。

日本酒以外の地元産品を数多くそろえたところが特徴だ。菓子店は地域で有名なパティシエと協力して運営し、雪室には日本酒だけでなく地元の野菜なども貯蔵する。新施設の開業前には地域住民に広く呼び掛け、敷地内で植樹を行った。魚沼の里という名称自体、南魚沼市という地域を表に出している。

魚沼の里には八海醸造の酒蔵があるが、同社は醸造する場である酒蔵見物を受け付けていない。代わりに訪れた人が楽しめるよう、関連施設を増やしている。元からある店舗の中でもバームクーヘンで人気をあつめる菓子店「さとや」など、日本酒にとどまらない魅力を提供している。

日本酒は地域性が深い「おらが酒」。特に新潟のように地酒が主力の場所では、地域性と結びつけた付加価値は欠かせない。「冬がはっきりとして四季がある魚沼の酒屋」(南雲社長)としてアピールするには、魚沼そのものの魅力を消費者に伝えることが欠かせないとの発想だ。