豊富な薬味の種類
9分で75杯。次第におなかが張ってきて、真剣勝負の面持ちになってくる。12分で90杯。ようやく100杯の大台が見えてきた。しかし、おなかはパンパンだ。
結局、105杯でフタをした。東家では100杯以上食べた人は木のお札がもらえる。「わんこそば105杯!みごとに平らげました。立派です」と書かれたお札をもらい、店を出た。
東家のわんこそばは薬味の種類などによって2625円と3150円のコースに分かれる。高橋大専務によると、ダシは毎日コンブと煮干しで取っているという。そば粉は地元産のほか秋田、北海道、中国産などだ。薄味なので量を食べるときに邪魔にならない。のど越しもいい。
わんこそばで東家と並び称されるのが創業129年の直利庵。おかみの松井裕子さんは「食べ放題の側面ばかり強調されてきたが、もう一度“おもてなしの食事”という面に光を当てたい」と話す。「早く食べたい人、ゆっくり食べたい人、それぞれの気持ちをキャッチしてお給仕することを大切にしたい」
同店では「上」(3675円)、「普通」(2940円)の合わせて2コースを用意。いずれも、すじこ、クルミ、刺し身、ネギ、ノリ、なめこおろし、花かつお、もみじおろし、お新香など薬味は豊富だ。工夫すれば何十種類もの味が楽しめる。
同店のそば粉は岩手県産。コンブは北海道産を使い、かつお節は先代から付き合いのある問屋から仕入れ、昔と変わらぬ味を提供するよう心を配る。
冷麺、じゃじゃ麺…魅惑の「盛岡三大麺」
わんこそばのほか焼肉店でおなじみの「盛岡冷麺」、平たいうどんに肉味噌をかけた「じゃじゃ麺」のご当地麺を持つ盛岡市は1996年、「めん都盛岡」を宣言した。山がちで冷涼な岩手はおいしいそばの産地。農家のおかみさんたちはこのそばをいかにおいしく食べさせるかに腕を競ってきた。この伝統が、めんを様々に提供する食文化として根付いていったようだ。
直利庵は、通年提供の日本そばだけでも約40種類。春の山菜そば、夏の冷たいそば、秋のキノコそば、冬のカキそばなど、季節の具材を使ったそばは約10種類。中華そばも名物で、大根おろしをかけた「おろし中華」、とんかつを載せた「カツ中華」など変わり種を含めて4種類ある。
「めん都盛岡」の老舗だけに、わんこそばに限らないメニューの豊富さが魅力だ。日本そばと中華そば、両方を注文する客も多い。
毎年11月に開かれる「全日本わんこそば選手権」は2012年で27回を数え、県のゆるキャラ「わんこ兄弟」としても活躍する「わんこそば」。「盛岡三大麺」の筆頭格として全国区の知名度を誇るその起源は、盛岡地方に江戸時代から伝わる「そば振る舞い」にさかのぼるという。