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肉厚の凄み・肉汁… 「仙台牛たん」、感動の食体験 東北肉紀行

2013/10/19

「『はやて』で昼ごろ到着ですね。それでは、とりあえず昼食に牛たんを食べに行きましょう」――。仕事でもプライベートでも、東京からの来訪者を仙台に招待する際に、「在仙」の転勤族に与えられる重要任務がある。うまい牛たん店の紹介である。

「特切り厚焼き定食」(手前)と「牛たん炭火焼き単品」(奥)=仙台市青葉区の喜助駅前中央店

■タイミングが命

仙台市内に牛たん専門店は約100店あると言われている。牛の舌をぜいたくに分厚くスライスして炭火で焼き、麦が入った白飯と牛の尾(テール)を煮込んだスープと共に出す。焼肉屋では名脇役の「舌」が仙台では主役を張る。初めて仙台の牛たんを食べる来訪者にとっては、タンだけで腹を満たすという今までにない食体験になる。

「味の牛たん 喜助」の駅前中央店で副店長を務める鈴木春香さんは牛たんを焼いて10年。銀色のトレーに積み上げられたスライス肉を手際よく網に並べ、しみ出る肉汁を合図に菜箸で返す。5分もかからず香ばしく焼き上がったタンを整然と縦に重ねて包丁で2つに切る。

一見簡単なようで奥が深い。「頻繁に返すと脂を落としすぎる。ジューシーさを残すには、ひっくり返すタイミングが重要です」と説明してくれた。

喜助の牛たん炭火焼定食は1人前1500円。塩味、たれ味、味噌味の3種類を用意しているが、定番はなんと言っても塩味。両面に切れ目が入る独特の形状のおかげでかみ切りやすい。肉らしからぬ不思議な食感。適度な下味とあふれる肉汁。一口食べては麦飯をかけこみ、テールスープで小休止。3点セットの相性は抜群で、本当に良くできた定食だ。

観光客にも大人気の牛たんだが、その正体はあまり知られていない。どういう経緯で仙台の名物になったのか。どんな作業を経てテーブルに並ぶのだろう。

1頭でたった4人前

1000円を超す価格設定に「観光客向けにぼったくっているのでは?」と疑問を持つ人もいるかもしれない。仙台牛たん振興会の小野博康・事務局長は「うどんやそばに比べると格段に原価率が高いんです」と反論する。

実は多くの専門店で使っているのは舌の根元の柔らかい部分。固い舌先はたん焼きには使えない。1頭の牛の舌から取れるのは4人前がせいぜいだという。

ちなみに仙台の牛たんはほとんどが輸入だ。畜産が盛んな東北のイメージがあって国産牛のタンだと誤解する観光客が多いが、大半の専門店が米国産や豪州産を使う。全国で輸入する牛の舌の2割を仙台で消費するという。

地元の人によると、以前は700~800円程度というのが定食の相場だった。昨今の価格上昇を招いたのはBSE(牛海綿状脳症)問題だ。米国産牛肉が長らく輸入規制されたため、原料不足で牛の舌の価格が高騰した。

しかし今後は値下げが期待できる。米国産牛肉の規制は緩和され、環太平洋経済連携協定(TPP)による関税撤廃も決まれば追い風だ。仙台の味は世界情勢に密接につながっている。

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