2014/4/14

日本の歩き方

心を残しながら、金倉寺(こんぞうじ、76番)へと向かったが、実は筆者には遍路装束以外にもう1つの課題があった。それは、各寺でお遍路さんが唱える般若心経などのお経だ。気恥ずかしさが先に立ち、お経が読めない。読経は必須なのだろうか。

初心者はゆっくり小さな声で読経

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「声を出して読経すると心が落ちつくし、何かいいことが起こるような気もしてくる。最初は本堂正面から少し離れたところでゆっくりと小さな声で読経すればいいんです。私も88カ所を巡り終えたころはかなり上達しましたよ」(2周回った兵庫県の60代の男性)

金倉寺で寺の副住職に頼んで、一緒に読経してもらった。寺近くにある香川屈指の人気うどん店「長田in香の香」で遅い昼食を取り、いよいよ7ケ所まいりの最後の寺、道隆寺。「お四国さん」の先輩からこう言われたことを思い出す。「みんな自分の読経に集中しているので、他人のお経は気にしてないし、下手でも笑ったりしませんよ」。

ポケット版の経本を手に、本堂に向き合う。ところが、隣で祖父母に連れられた幼児2人が般若心経を完璧に覚えていて、よどみなく暗唱している。ついひるんでしまったが、「これも試練」と少し離れた場所で自分も読経を始めた。つかえながらも、なんとか読み終えた。

(1)弥谷寺(2)曼荼羅寺(3)出釈迦寺(4)甲山寺(5)善通寺(6)金倉寺(7)道隆寺

「お遍路をしていると心が浄化されるというか、すがすがしい気持ちになる。今日は予定していたより一つ多く寺を回れたとか、そんなささいなことに喜びを感じたり。感謝の心も増して、人に優しくなれる気がします」(夫婦で今回が7周目という山口県の69歳の女性)

信仰心、亡き人への供養、自分探し、体力への挑戦……。きっかけは様々だろうが、88カ所を回り終え(結願し)、日常の生活に戻っても、また遍路に出たくなる。四国の良さや人々との触れ合い、達成感など、その理由をそれぞれ口にするが、仕事や日々の生活で、澱(おり)のようにたまったストレスが消え、身も心も解放される心地よさが「お四国さん」の魅力なのかもしれない。

約20キロメートルの歩きを終え、最寄り駅に向かう。脚は筋肉痛だが、心は軽い。明日からまた面倒な事柄に悩まされるかもしれない。だが、今だけはこの晴れやかな気分に浸っていられる。半人前だが、またちょっとお遍路が好きになっていた。(高松支局長 岩沢健)

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