2014/4/14

日本の歩き方

普段着OK、数珠でも白衣でも何か1つ

以前、お遍路さんから聞いた話を思い出し、意を決して石段を上り始める。筆者のような「半人前遍路」にとって「お四国病」への道は遠い。だが、上り切ると、苦労しただけの感動が待つ。弥谷山の岩窟も利用してつくられた同寺は、弘法大師が幼少期に学問に励んだ場とされ、開創1200年を記念して320年ぶりに秘仏も開帳されている。神秘的で見どころも多い寺だ。

出釈迦寺からの風景。サクラの向こうに瀬戸大橋がのぞめる

その後、階段を下り、昔ながらの遍路道の風情が残る山道を歩く。この山道は「四国88箇所霊場と遍路道」の世界文化遺産登録に向け、現在は国の史跡指定を目指しているという。

その後、曼荼羅寺(まんだらじ、72番)を経て、出釈迦寺(しゅっしゃかじ、73番)へ。雨も上がり、高台に立つ同寺からは咲き始めたソメイヨシノの花越しに、讃岐平野や瀬戸内海、瀬戸大橋が眼下に広がる。7ケ所まいりでも絶景の1つだ。

ところで、筆者はこの日、普段着で遍路を始めた。「何となく遍路に興味がある」という人にとって、全身白ずくめは二の足を踏むハードルになっている気もしていたからだ。普段着姿は不謹慎なのだろうか。そんな思いを寺の関係者にぶつけたことがある。

「最初は普段着でもいいと思いますよ。でも、それでは普通のお寺観光と変わらない。数珠とか上着の白衣(びゃくえ)とか1つでもいいから身につけてみてください。それだけでも気が引き締まる。形から入るのは案外、重要なんです」(霊場のある寺の住職)

曼荼羅寺からは白衣を羽織ってみた。すると、風景が一変した。お寺に入った時の心持ちだけでない。街が激変したのだ。「お遍路さん、気いつけてな」。普段着の時はただ通り過ぎていた人たちが、お遍路さんに「変身」した瞬間から所々で声を掛けてくる。横断歩道がない道路で車が止まってくれる。両手いっぱいに荷物を抱えた若者が「お疲れさま。頑張ってください」と励ましてくれた。どう見ても、ただ歩いている筆者より若者の方が「お疲れ」で、「頑張ってほしい」状況なのに。恐縮してしまうほど、四国はお遍路さんに優しい地なのだ。

沿道の家から「お遍路さん、お願いしたいことがあります」と呼び止められた。「お接待をさせてください」と渡されたのは、手作りの小さな焼き物のお地蔵さん。「ご無事で遍路を続けてください」。僅か十数キロメートルの遍路で、これだけ様々な「お接待」を受けたことに感動する。

遍路客以外でもにぎわう善通寺。弘法大師生誕の地とされる総本山だ

「腰が曲がって、やっと歩いている85歳の老婦人から声を掛けられました。お接待として渡されたのは120円の小銭。国道沿いの自動販売機で買う1日1本のジュースが、おばあちゃんの楽しみだったんです。そのお金をくれた。事故で夫を亡くし、一度巡礼をしたそうですが、今はそれができない。これは私にではなく、お大師様に渡されたのだと思いました。別れた後も、おばあちゃんは私に手を合わせていました。曲がり角で私の姿が見えなくなるまで、ずっと……」(3周目の東京都の男性)

筆者の遍路は、春の草花が咲き誇る田園地帯を通り、甲山寺(こうやまじ、74番)を経て、弘法大師生誕の地とされる総本山、善通寺(ぜんつうじ、75番)へ。広大な敷地に五重塔、樹齢1000年を超える大楠、完全な暗闇の中で、再現した弘法大師の声が聞ける戒壇めぐりなどもあり、時間が足りない。

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