トロだけじゃない 大間マグロ、絶品の部位東北魚紀行

一本釣りは一獲千金

そんな藤枝さんにマグロ一本釣り漁の魅力を尋ねると、「一獲千金だからな」とニヤリ。大物をあげればキロ当たり数万円の高値がつくことも。短時間で数百万円のもうけになる。これまで釣り上げた最大のマグロは280キロ。いくらで売れたかは「内緒」だ。

それでも、転業してよかったかどうかは「わからない」という。釣れるときは1日で5尾。1カ月間、1尾も釣れないこともざらにある。「水ものだ。不安定だよね」。マグロ漁だけで生計を立てる漁師は少ない。

危険とも隣り合わせだ。「真冬に漁に出て、猛烈にふぶくと、大きく揺れる船の上で心細くなるよ」。だから、「息子には(漁師は)継がせない」という。

太平洋と日本海とにつながる津軽海峡はイカなどのエサに恵まれ、マグロが身の引き締まる時期に回遊してくる好漁場。大間崎沖1~3キロメートルの近海ではマグロの供給量が減る冬場に脂が乗った大物がとれる。

特に小さな漁船で大きなマグロを追いかける昔ながらの一本釣りスタイルは映画やドラマでも「格闘する男の漁」のイメージで紹介され、「ブランドマグロ」としての大間産マグロの人気を決定づけた。築地市場を管轄する東京都の担当者は「大きさや品質が同等でも、大間産というだけで他より高く売れる」と言う。

大間マグロは昨年の築地市場の初競りで、269キロの大物が1本5649万円(1キロ当たり21万円)の当時史上最高値で落札された。前年に同じ津軽海峡の対岸の戸井(北海道函館市)で水揚げされた342キロのマグロがつけた最高値3249万円(同9万5000円)を大きく上回った。

そして今年1月。初競りで落札された大間産マグロ(222キロ)は1億5540万円と、ついに1億円の大台を突破して全国的な注目を集めた。

特上マグロ丼の味は

大トロ、中トロ、赤身が鮮やかに盛りつけられたマグロ丼(青森県大間町の「浜寿司」)

大間町で8月14日に開かれた同町最大の夏祭り「ブルーマリンフェスティバル」。手こぎ舟の競走やダンスショー、盆踊りなど多彩なイベントの中で、毎年ひときわ大きな人気を集めるのが、マグロの解体ショーだ。

とれたばかりのマグロの巨体があっという間に刺し身になり、詰めかけた1000人ほどの観光客に無料で振る舞われた。大分県から訪れた夫婦は、「大間のマグロは九州でも有名。初めて食べたけれど、こんなおいしいマグロは食べたことがない」と興奮した様子。

確認する意味で、記者も同町の「浜寿司」でマグロ丼をいただいた。思い切って、3900円の「特上」。赤身、中トロ、大トロが鮮やかに、そしてダイナミックに盛りつけられている。刺し身と酢飯の間に薄くとろろ昆布が敷き詰めてある。「大間らしさを出したくて。近くでとれる昆布を取り入れてみた」と主人の伊藤晶人さん(49)。

赤身はさっぱりさわやかな風味。大トロは濃厚で舌の上でとろける感じだが、口の中に残るようなしつこさはない。メバチやキハダと違い、クロマグロはめったに口にしない高級魚で、記者もそれほど舌が肥えているわけではないが、やはりその美味には素直に納得せざるを得なかった。

伊藤さんに、ここ1、2年の大間マグロの高値取引について尋ねると「味には絶対の自信があるけれど、それでもちょっとやり過ぎだなあ、という気持ちはある」と本音が聞けた。3年前から仕入れ値は2倍に上がっているのに、提供価格は据え置き。「大間マグロを少しでもたくさんの人に味わってもらえるよう、もうけ度外視で商売するしかない」との覚悟だ。