トロだけじゃない 大間マグロ、絶品の部位東北魚紀行

釣ったマグロの巨体はフォークリフトでつり上げて水揚げする(青森県大間町の大間漁港)

日が傾き、あたりがだんだん暗くなってくる漁港に、1隻の小型漁船が入ってきた。接岸した船から黒くて大きな魚をフォークリフトでつり上げて水揚げする。長さ180センチ、重さ100キログラムのクロマグロだ。漁協の処理場に運び、すぐに尾ヒレを切り落とし、頭部に穴を開け、3人がかりでエラと内臓を取り出す。

胃袋にはイカがびっしり

心臓は大人の拳くらいで、巨体に比べると想像していたよりも小さい。ラグビーボールほどの大きさの胃袋を切って開けると、中にはイカがびっしりと詰まっていた。マグロは氷箱に入れられ、保管室に運び込まれる。この間およそ3分。あっという間の手際の良さだった。

気がつくと、周りにカモメが集まってきている。「キャオ、キャオ、キャオ!」。漁師がマグロの内臓を放り投げると、それをカモメが奪い合う。ドサクサに紛れてカラスも争奪戦に参加している。

ほどなく、もう1隻が入港してきた。水揚げしたのは、これまた100キロのクロマグロだった。「今年はまだ数が少なくてね。立て続けに2尾の水揚げが見られるなんて、あんた、ついてるよ」。漁師が教えてくれた。

本州最北端の町、青森県大間町の大間漁港。全国的な知名度を誇る「大間まぐろ」が本格的な漁期を迎えつつある。

解体されたマグロの胃の中に詰まっていたイカ。大間のマグロは津軽海峡の豊富なイカを食べて育つ(青森県大間町)

この日、50キロと90キロの2尾の釣果があった一本釣り漁師の藤枝亮一さん(59)に話を聞けた。真っ黒に日焼けした精悍(せいかん)なマスクに「ベテランか」と思いきや、マグロ漁のキャリアは「まだ12年」。それ以前は、マグロの仲買人をしていたという。

ある日、港に近い自宅から「マグロが海面を跳ねているのが見えた」。試しに小舟で沖に出て釣り糸を垂らしてみたところ、たまたまマグロを「引っかけて」捕まえたのが「病みつき」になるきっかけだった。「他人がマグロをとってくるのを待っているより、自分で釣ったほうが早い」

以来、潮の読み方やエサのとり方、仕掛け作りまで他の漁師に聞いて、見よう見まねでようやく技術を覚えた。「誰も自分の本当の技術やコツは他人には教えない。とくに疑似餌の作り方は絶対に秘密。盗むようにして釣り方を覚えるしかない」

今年は船のエンジントラブルで漁を始めるのが平年より2週間ほど遅れたという。「海に出られない。エサのフクラゲ(イナダ)をとりに行けない」。焦りが募った。「マグロが釣れる漁場は狭い。いい場所を求めて漁師同士で争い、戦争のようになる。勝負は場所の確保で決まるから」。近年は燃料の軽油の高騰で、船で遠くまでマグロを追いかけていくのが難しくなっているという。