進化する女性チーム 「頭脳派」が新風
感性と専門性で新たな付加価値
大学の研究分野で、宇宙事業で、ゲーム業界で、女性チームが活躍している。女性の視点を生かしつつ、高い専門性で新たな付加価値を追求する、いわば"頭脳派"だ。「これまでになかったものをつくる」という意欲にあふれた現場をたずねた。
東京都内の会議室。思い思いのカジュアルな服装をした女性7人が集まり、マシンガントークを始めた。テーマは「おしゃべりプラットフォームの構築」だ。
「会議やおしゃべりって話が別の方向に飛んでいくでしょ。収束させるにはどうすればいい?」「話が飛んだ瞬間に周りがどう思うのか可視化できない?」「会話がどこに向かうか示せる?」「ノイズを除去できればね」
耳慣れない言葉が所々に出てくる。2009年に発足した研究者集団「CHORDxxCODE」(コードコード)。7人は東京大学大学院で出会った。6人は工学や学際情報学などの博士号を持つ。女性的な感性(CHORD)と論理的思考(CODE)を組み合わせて生活を楽しくするのが信条だ。
「最新技術の一端を使って社会に新しい提案を投げかけたい」。チームの代表で、早稲田大学基幹理工学部専任講師の橋田朋子さん(32)は語る。「人間は音をどう知覚するか」をテーマに、東京芸術大学から東大へ進んだ変わり種だ。
一つの分野を掘り下げて後世に名を残す、という思想には軽やかに背を向ける7人。男性主体の東大工学系で「ふわっとした研究があってもいいのに」と、プリクラの画像処理の進化と美人になりたい欲求、視聴覚障害者向けのバリアフリー映画製作など、独特のテーマで研究してきた。
チームの成果はどれもユニークだ。発光ダイオード(LED)に太陽電池を組み込み、光で演出するネックレスや指輪(写真1)。ドライフルーツをゼリーやプリンに落下させて、視覚でも楽しめるデザートをつくる機械(写真2)。エステの効果を全身画像で定期的に撮影して「見える化」し、未来の自分まで予測するシステム。営利目的の企業連携は歓迎で「むしろお金を稼ぎたい」と笑う。
4月から早大に転じた橋田さんと前後して、メンバーは東北大や九州大などに研究拠点を移した。1人は育児休業中だ。韓国出身の2人は大手広告代理店とサムスンで働き始めた。「ビジョンは特に決めない。職業はもちろん、結婚すれば生活も変わるから」「おばちゃんになっても新しいものを生み出したい」。今後も自然体で研究発表の場、アイデアのふ化装置としてチームを続ける考えだ。
1986年の男女雇用機会均等法施行を契機に女性総合職が多く生まれた。企業は女性の活躍を印象づけようと女性チームを発足。主婦が使いやすい日用品、女性好みの色展開などを手掛けたが、営業や開発は男性主体で「お飾り」的なケースも少なくなかった。女性の高学歴化も背景に女性チームは進化している。
「衛星は一度出したら帰ってこない。部品が壊れたら終わり」。茨城県つくば市にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究開発本部で働く池田直美さんは部品畑10年のプロフェッショナルだ。衛星や金星探査機に搭載する電子部品は、急激な温度変化や高い放射線量下の環境で使用される。その品質を維持し、安全性をチェックする重要な職務を担う。
入社4年目の加藤真耶さんはMEMSと呼ばれる超微細なデバイスを研究。先端技術を宇宙分野へ応用しようとマイクロレベルで試行錯誤する。食事もできずに10時間続けて作業する日もある。
今も男性が多いJAXA。だが当人たちは「性別をあまり意識しない」。それぞれが培った高度なスキルが評価のすべてだ。
欧米では宇宙開発に関わる女性が「ウィメン・イン・エアロスペース(WIA)」を組織、女性研究者の地位向上を目指して活動する。日本でもJAXAやロケット・衛星メーカーなどで働く女性が、まずは緩やかな情報交換をと「日本版女性宇宙チーム」をつくる機運が盛り上がる。
ゲーム開発の現場でも女性の活躍が目立ってきた。昨年11月に発売され、10万本を超すヒットに育ったバンダイナムコゲームスの「アイカツ!シンデレラレッスン」。アイドルをめざす女子生徒が主人公だ。
プロデューサーとして企画・開発から販売までを統括したのは第2事業本部の長谷川妙子さん(29)。アシスタントや営業はすべて女性だ。マニア以外の家庭用ゲームのユーザーを開拓する、という業界が抱える共通の課題に立ち向かう。
「女だから分かる『キラキラ感』や『これはないな、ダサいな』という感覚がある」と長谷川さん。キャラクターがまとうマリンルック風のブレザーは、さながらAKB48の衣装のように手が込んでいる。
単なる「女性初」を競う時代は去った。女性の感性や細やかさを生かしながら社会に新たな風を吹き込む女性チームが、動き始めている。
(馬淵洋志、関優子)
[日本経済新聞朝刊女性面2013年5月25日付]
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