女子中高生「仕事創る力」養う 働くための準備着々
「好きなブランドとその理由を書いてください」。講師の指示で生徒は一心不乱に机上の紙に向かう。「ユニクロ」「ディズニー」「キティちゃん」……。書き終わると話し合いがはじまった。「安いのにしっかりしたデザイン」「かわいい!」。あちこちで歓声が上がる。
ここで再び講師が一言。「いま挙がった理由が『ブランド』そのものです」。ブランドは商品や店自体ではなく、他者の評価の中にある。「パーソナルブランドも同じ」。やりたい仕事、就きたい職業をイメージするだけでなく、その思いや適性を評価してもらうことが大切だと説く。
「私の価値」を考える
10月末の放課後。東京・品川の品川女子学院で開かれた特別講座に、中3、高1の生徒約30人が集まった。講師は大手企業などでブランディングの研修を手掛けるプラントライブ(横浜市)の山本秀行代表。生徒に「売り」や「市場価値」の重要性や身につけ方を伝えて、進学や就職に役立ててもらうのが狙いだ。
舞台関係の仕事をしたいという高1の後藤安澄さんは「自分のことは、親や友人がわかってくれればいいと思っていたけれど、それではダメ。他者評価を得るために、もっと幅広く情報発信したい」と話す。
品川女子学院は、28歳の時に社会で活躍できる女性の育成を目標にした「28project」を掲げる。今回の特別講座はその一環だ。ほかにも高校生は文化祭でクラスごとに模擬会社をつくって店を運営。終了後には決算発表や株主総会まで行い、起業や収益の流れなどを学ぶ。地元の商店街や企業と共同で新商品開発にも取り組む。
漆紫穂子校長は「職探しから、職づくりへ。自分にふさわしい仕事がなければ創ればいい」と話す。「様々な体験をすることで、将来の仕事の可能性は無限に広がる」
保護者が仕事語る
東京都調布市の桐朋女子中学校。「助産師は人の誕生にかかわる仕事。責任は重いけれど、喜びや感動がたくさんあります」。赤ちゃん誕生の瞬間の写真を掲げながらの臨場感あふれる話に、生徒たちは身を乗り出すように聞き入る。講師の川畑ひろみさん(44)は、同校中3生の母親だ。
昨年から保護者による職業講演会を始めた。今月11日には、銀行員や警察官、アナウンサーなど父母9人が、中3の生徒約270人に講演。演台にたった父母はのべ18人に上る。学年主任の田島伴子教諭は「保護者に協力していただくことで、生徒が職業をリアルにとらえ、社会で活動する道を探るきっかけになれば」と話す。
情報化の進展を背景に、職業ががらりと変わってしまう可能性もある。米デューク大学の研究者、キャシー・デビッドソンは米紙のインタビューの中で「2011年に小学校に入学した子どもたちの65%が、大人になって現在ない職業に就く」と予測。日本でも政府は成長戦略の一環として、「創業塾」を全国300カ所で開く構想を打ち出すなど、新たな仕事を生み出す力が必要になっている。
企業に商品提案
積極的に社会や企業などと連携して生徒の実力を養っているのが、東京・世田谷の鴎友学園女子中学高等学校。中高生向けの学習プログラム「クエストカップ2013全国大会」に今年参加した。企業からの課題に応えて経済活動の意義を学ぶ内容で、鴎友学園は大和ハウス工業に、断熱材と発熱材を使った新しい商品の開発と販売を提案、賞を獲得した。
東日本大震災の被災地を支援する講演会や学習旅行も実施。韓国の高校での国際シンポジウムや、大学生主体のサマースクールにも積極的に参加してきた。
同校はユニークなカリキュラムで知られる。ほとんどの教科のテキストやカリキュラムはオリジナルで作り、授業も生徒自らが解を探す方法が基本。吉野明校長は「校外での活動の多くは生徒が自発的に行っている。それをじゃましないのが学校の務め。経済的、文化的背景が異なる集団と交流して、たくましさを身につけてほしい」という。
フリーターやニートが急増した2000年以降のキャリア教育は、若者の職業人としての資質の欠如などを問題視しがちだった。これに対して3校の試みは、職業や社会の動きに迫って、将来働く際に必要な力を養うことに力点が置かれているのが特徴だ。
若者の雇用問題に詳しい労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員は「自己分析や職業観の形成にとどまらず、社会が何を求めているかをよく見て考えようとするアプローチは評価できる」と語る。
(編集委員 山田康昭)
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