男が変わった 日本生命、男性育休取得100%達成
法人営業企画部の村田賢一郎さん(35)は育休を取得した一人。昨年7月に1週間会社を休み、息子の浩樹くん(2)の育児に専念した。
育休をとったのは、旅行関係の会社で働く妻の麻衣さん(35)の繁忙期。普段は時間が合わずにできない保育園の送り迎えに始まり、浩樹くんを公園や図書館に連れて行き、食事も作った。「保育園に連れていくだけでも思いの外大変だった。妻の苦労がよくわかった」と振り返る。
村田さんは以前から育児に積極的な方だったが「浩樹の洋服がどこに入っているのか、ご飯には何が必要か。2人きりで過ごしてわかったことがいっぱいあるはず」と麻衣さん。「夫の育休以来、引き継ぎなしでも休みの日に子どもを夫に託して出掛けられるようになった」。村田さんも「子どもの変化がわかるようになった」と語る。
日生は女性の社会進出を応援する観点から、2013年度に男性社員に育休を100%とらせる目標を立てた。同社の育休制度は子どもが1歳6カ月になってはじめて迎える3月末までの間、男女を問わず休みが取れる仕組み。最長2年半休める。有給扱いは7日間のため、まず1週間の取得を徹底することにした。
昨年4月から、男性に上司との話し合いに基づく取得計画立案と提出を義務付けた。今年3月末までに取得期限を迎える男性社員279人全員が育休を取得。前倒しで取得した人も含め平均5.2日で土日と合わせて1週間程度休む人が多かった。最長は16日間だった。
男性の育休取得は職場にはどんな変化を生むか。女性社員が9割の日生は男性の育休取得を促す狙いの1つに「職場の女性への理解を深めること」をあげる。村田さんは営業活動や商品開発に女性社員の意見を反映するプロジェクトに携わっている。
育児のために時短勤務中の30代の女性社員は「村田さんは仕事のことで気遣っていつも声をかけてくれる。働く女性への配慮があるなと感じる」と語る。別の30代の女性社員は「女性だけを働きやすくしても、男性が理解していないと意味がない」と男性の育休を歓迎する。村田さん自身も「子育てしながら女性が働く大変さが理解できるようになったのは育休の成果」と胸を張る。
育休を取得した日生の男性10人への調査でも「子育て中の女性の急な休みを理解できるようになった」(30代・労務部門)との声が聞かれた。
育休をとる上で気がかりなのが、仕事の調整がつけられるか。村田さんの直属の上司、法人営業企画部の伊東輝雅課長は「出張などで長期不在になる場合にも育休の経験を生かし、計画的に業務の段取りをつけるようになった」と村田さんの変化を評価する。
育休を取得した男性への調査では「計画的に業務を進め、組織内で連携がとれれば休めるとわかった」(30代・法務部門)、「効率的に働き、早く帰ることを意識するようになった」(30代・商品開発部門)などの感想があった。男性の育休取得は、長時間労働が当然だった日本人の働き方を変える可能性も秘める。
男性が私的な目的で休む風土が根付けば、育児以外にも看病や介護などを理由に休みやすくなる。高齢化の進展で育休を取得する女性よりも介護休業が必要な男性が増えるとの指摘もある。
政府も力を入れる。厚生労働省の調査では、12年度の育休取得率は女性83.6%に対して男性は1.89%。政府は女性の活躍を推進するため、20年までに男性の育休取得率を13%にする目標を掲げている。
今国会では、育休中の所得を補う「育児休業給付」の拡大が正式に決まった。これまでは子どもが1歳になるまで育休前の賃金の5割を補償してきたが、育休の当初半年間だけ3分の2に引き上げる。共働きの夫婦が交代で育休をとれば、半年ずつ最大で計1年間にわたって、育休中の夫か妻が育休前賃金の3分の2を受け取れる。収入が減ると消極的だった男性の育休取得を後押しする。
もっとも、最大の壁は職場環境。厚労省の調査では、男性が育休を取得しなかった理由で、経済的な理由が22%なのに対し、育休がとりにくい職場の雰囲気をあげた人は30.3%で最多だった。
1週間の夫の育休は女性の十分な負担軽減につながっているとは言い難い面もある。だが父親の育児参加を支援するNPO法人、ファザーリング・ジャパンの徳倉康之事務局長は「大半の企業はまだ男性の育休取得に否定的。会社の号令で意識を変えられたのは大きい」と日生を評価する。国による仕組み作りとともに、各職場が意識改革を進めることが、男性の育休取得を増やすカギになりそうだ。(平野麻理子)
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