女子中高生に「会社員」PR 次世代育成狙う企業
企業で働く女性をもっと増やしたい――。これから進路を決める女子中高生を対象に、企業での女性の働き方を紹介するイベントがこの夏、各地で開かれている。早い段階から「企業で働く」という選択肢を知ってほしい。次世代を担う女性会社員の底上げへ。中高生へのアプローチが始まった。
高校生「仕事で大切なことはなんですか」
会社員「言いたいことをしっかり伝えること。何言っているのか分からないのは、ダメー」
高校生「働いているお母さんが女の社会は人間関係などしんどいって言ってる。私が活躍できるのかな」
会社員「気にしなくてええ。でも、おっさんが混ざった職場はもっとしんどいで(笑)」
パナソニック、京セラ、クボタなど関西に拠点を持つ62の大手企業でつくるウーマンズネットワーキングフォーラム。企業の枠を超えた女性社員の連携を目的に2005年に発足。20~40代を中心に数百人の女性社員が集まり、キャリア形成などについての勉強会を原則年1回開いている。
今月6日、大阪府枚方市で開いた10回目となる勉強会には、初めて関西の高校に通う1~3年の女子76人を招待。多様な業種で活躍する女性社員が自らの仕事を紹介した。
高校生は15のテーブルに分かれ、説明役の15社の女性社員の語る職場でのエピソードに耳を傾けた。はじめは表情が硬かった高校生も、先輩のリアルな体験談を聞くうちにワイワイガヤガヤ。身を乗り出し、質問が次々に飛ぶようになった。
高校生を対象にしたのは「企業で働く姿が見えないまま、女性は人生の進路を決める年齢になってしまう」(帝人の日高乃里子ダイバーシティ推進室長)との危機感から。ベネッセ教育総合研究所の調査では女子高校生のなりたい職業の上位は保育士や看護師、薬剤師など高校生でも仕事内容が見えやすい職業ばかり。「企業で働く楽しさを、知ってもらうきっかけが必要」(京セラ人事企画部の大谷真実さん)と考えた。
なかでも理系は大学の学部選びがその先の仕事につながりやすい。理系を選ぶ女性は医歯薬系の学部に進みがちで、メーカーの技術者が主な進路になる理工系は増えていない。受験学部を選ぶ前の段階で高校生の意識を変える必要がある。
勉強会ではあえて、結婚の厳しい現実も示した。女性が結婚相手に求める年収の男性は20人に1人しかいない、働き手が男性1人では離婚や死別の際のリスクが大きい――。女性の経済的自立の必要性を訴えた。
狙い通り、企業の第一線で奮闘する女子社員の姿は高校生に新鮮に映ったようだ。「留学してもっと勉強したい。世界中で仕事する姿はかっこいい」(1年生の奥田真由さん)、「多くの女性管理職がいることは励み。キャリアに挑戦したい」(2年生の杉本茉由さん)。参加者全員が集まった勉強会のラスト。高校生の発言に、700人を超える先輩女性から、どっと拍手が湧いた。
日本アイ・ビー・エムは7月30日から4日間、女子中学生向けに理系の仕事への興味を促すイベントを仙台市で開いた。JR東日本、東北大学との共催で参加者は38人。2年前の倍になった。
女子に絞っているのは、メカに触れるのは男子という固定観念を壊すため。車の形のロボットを組み立て、自ら作ったプログラムで動かす企画では、自在な動きの面白さに歓声が上がる。「中学生のうちから作る楽しさを経験し、関心を持ってほしい」(梅田恵ダイバーシティ部長)。IBMは世界45カ国以上で同様の取り組みを実施し、女性プログラマーの芽を育てている。
ソニーも今月31日に都内で女子中高生を対象に、工作や実験の体験イベントを初めて開く。科学の面白さを知ってもらい、将来エンジニアを目指す女性を1人でも増やす目的だ。
就職情報提供のマイナビ(東京・千代田)が都内で今月24日、女子高生などを対象に初めて開くイベントには、日立製作所や資生堂、りそな銀行など十数社に勤める女性社員が参加。仕事と家庭生活を両立しながら活躍する姿を紹介する。
このイベントには経済産業省も協力する。自らも3度の産休・育休を経て職場に復帰した坂本里和経済社会政策室長は「仕事と子育ての二者択一しかないと考える高校生が多いのを懸念している。両立している女性に触れてキャリアに興味を持ってほしい」という。
多くの企業で少数派として奮闘してきた女性たち。だからこそ、後進を増やすことの必要性は共通の認識だ。日本の上場企業の女性役員はわずか1.2%で先進国の中で最低レベル。この夏、先輩たちの話に目を輝かせた女子中高生が理想の働き方を実現すれば、近未来の企業の姿は変わってくるはずだ。
(宇野沢晋一郎)
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