出産後も働き続けるための処方箋 中村紀子氏に聞く
日本女性エグゼクティブ協会代表
■育休は短め、融通利く働き方で復帰
――安倍政権は「育児休業3年、上場企業は女性の役員登用を」と女性の活躍を成長戦略に掲げている。
「ちょっと待って、どこに目を向けているの、と言いたい。育休は短めにして融通の利く働き方で復帰する方が社員にとっても、企業にとってもロスが少ない」
――育休3年を導入したものの、利用者が少な過ぎて最長2年に短縮した企業もある。
「育休が3年になろうと、女性役員の登用に数値目標を掲げようと、企業側と出産を経て復帰した女性社員側の双方の意識が変わらない限り、本質的な問題は解決しないことにそろそろ気づいてもらいたい」
――それでも最近取材した経営者たちの意識はずいぶん変わってきた。少子高齢化による将来の人手不足に危機感が強まっている。
「確かに私のところに経営者が人事担当者らを連れて相談に来るようになった。男性中心の正社員が長時間労働して企業の競争力を高める、という従来モデルはもう限界。優秀な女性なら子育てしながら働き続けてもらいたい。だが制約のある働き方しかできない彼女たちを戦力として再び活用するには、具体的にどうしたらいいのか分からない、とみな頭を抱えている」
■20~30歳代は「キャリアの仕込み時」
――企業への処方箋は。
「大半の日本企業には社員を幹部に育成する『キャリア・ロードマップ』があるが、みな男性向けだ。"男性仕様"に合わせて頑張れるタイプの女性しか幹部候補者として育てられない。ロードマップをそのままにして女性管理職の数値目標を掲げても無理がある」
――ならば最初から、出産後に職場復帰した女性を育てるロードマップも作ればいいと。
「20~30歳代を私は『キャリアの仕込み時』と呼んでいる。責任のある仕事を任され、失敗しながら成長する。企業にとっては、その大切な時期に『子どもができた』と休まれ、『子どもが発熱した』と早退されては、責任ある仕事を任せられず、戦力外扱いしかねない。せっかく復帰した優秀な者までが『もう期待されていない』と失望し、辞めてしまう」
■業務代行者に報いる制度が必要
――女性が休んだり復帰したりした職場は「みなで協力してうまくやれ」となりがちだ。
「そういうあいまいに穴埋めするやり方が一番悪い例だ。『この忙しいときになぜ私が』と現場の士気が落ちるし、職場復帰した女性も肩身が狭くなる」
「例えば短時間勤務で復帰した女性には、責任ある仕事を任せる機会を少しずつ増やす。ただし急な早退・欠席に備え、いつが期限のどんな業務を抱えているかを必ず職場で共有しておく。業務を代行した社員には働きに報いる制度が必要。報酬を与えてもいいし、人事で評価してもいい」
――働く女性側も変わらなければならない。
「日本女性エグゼクティブ協会を通じて管理職女性たちと情報交換するうち、働く女性が成功するための『8カ条』ができた。中でも重要なのは『目の前の仕事にベストを尽くす』『職場の協調関係を築け』5年先、10年先を見越していま何をすべきか、『人生の布石を打つ』の3つだ」
■若い世代の不安払しょくへ行政も意識変えて
――制度に頼って権利を主張するだけでは長続きしない。
「具体的に言うと、出産後も仕事を続けたいなら、職場の上司や同僚にその姿勢を示した方がいい。人によってやり方はいろいろあるだろうが、例えば1日6時間勤務で復帰した場合、週5日のうち1日は家族やベビーシッターの助けを借りてフルタイムで働いてみる。夕方の追い込み時で皆が忙しい時間帯を一緒に過ごせば、理解も得やすい」
――政府の少子化対策はすでに生まれた子どもに力点が置かれてきた。
「若い世代に広がる『仕事と育児の両立は大変そう』という不安を取り除く施策が必要だ。企業、働く女性だけでなく、行政も意識を変えなければ、この問題は解決しない」
(聞き手は女性面編集長 阿部奈美)
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