スキル生かす女性 組織にとらわれず柔軟に
「幼稚園の送り迎えに間に合う条件で雇ってくれる会社があるとは思っていなかった」。インターネットのセキュリティー関連企業、HDE(東京・渋谷)で働く松尾香里さん(38)は、大手学習塾に10年勤務。採用、研修などに携わり、最年少で部長代理まで昇進した。しかし育児休暇を3年取得後、復帰しようとしたところ子どもが保育園に入れず退職。単発で研修講師などをしていたが「キャリアを生かしたい」と仕事を探していた。
仕事は、午前中に子どもが幼稚園から帰宅する水曜日を除く週4日の10~15時。業務委託として新卒採用などの責任者を務め、「今の働き方が気に入っている」という。松尾さんを採用したHDEの高橋実人事部長は「成果さえ出してくれれば勤務時間にはこだわらない。今後、時短の正社員も増やしたい」と話す。
松尾さんにHDEを紹介したのは、ワーキングマザー専門の人材紹介会社Waris(東京・千代田)。「採用の時期だけ人事経験者に手伝ってほしい」「上場にあわせてIR(投資家向け広報)専門家を増やしたい」といった企業のニーズに対応し、専門知識を持ちながら家庭の事情で離職した女性を企業に紹介する。週3日や1日4時間などの柔軟な働き方が中心だ。
「お子さんが疲れ切っています」。2児の母、荒木直美さん(37)が働き方を見直したのは保育士の一言がきっかけだった。IT分野でキャリアアップの転職を果たし、子どもを寝かしつけた後には資格の勉強。睡眠時間を削り走り続けていたが、我が子の不調を知り、家族との時間を増やすため一旦仕事を辞めた。
パートなどでつないだ約3年の「充電期間」を経て、昨夏から採用サイト運営のシンクトワイス(東京・渋谷)で派遣社員として働きはじめた。「子どもは大きくなれば手がかからなくなるとは限らない。受験や習い事もあるし、不安定な時期にはそばにいたい」と在宅勤務の週もある。それでも任される仕事の責任は重い。社長直下でマーケティング戦略を担い、部署内の業務配分を決めたり取引先に発注したりする。
荒木さんが利用したのは、派遣・職業紹介サービスの「しゅふJOBエグゼクティブ」。主婦派遣のビースタイル(東京・新宿)が、管理職や企画職、専門職の経験があり、過去の年収が500万円以上の女性向けに2012年に立ち上げた。
主な派遣先は採用力の弱い中小企業や、新規事業を立ち上げたいベンチャー企業。たとえば年収800万円の人材を雇うにはコスト面のハードルが高い中小企業でも、週3日の時短勤務なら低コストでハイスキル人材を雇える。登録者は500人に迫り、成約ものべ100件にのぼる。ビースタイルの三原邦彦社長は「単純作業ではなく、戦略や新規の企画を立てるなど、仕事を作り出せる人材を企業も求めている」と話す。
女性の労働力率を示すグラフは子育て期が谷となる「M字カーブ」として知られる。30代以降は緩やかに上昇するが、就労形態は非正規が最も多く、単純作業のパートなどが中心だ。この層の女性が短時間でもスキルを生かした仕事ができれば、女性、企業双方にとって利点は大きい。
ネット経由で仕事を担えるクラウドソーシングも、スキルを生かして働く時間や仕事量を選びたい女性には追い風だ。
徳島県に住む中塚美里さん(29)は、08年に夫の転勤を機に仕事を辞め、以来2児の子育てに追われてきた。「社会との接点を持ちたい」と考え、今年からクラウドソーシングを活用してライターの仕事をはじめた。稼ぎは月数万円だが「将来的に本腰を入れて働くためのリハビリのようなもの」と話す。
東京都在住のデザイナー、杉田小絵さん(51)は12年秋からクラウドソーシングでチラシ作成やウェブデザインを手掛ける。クラウドでの仕事が継続的な取引につながり、現在は世帯の主な収入を確保できるという。
当然こうした働き方はリスクも伴う。収入は不安定になりがちで、企業にとって使い勝手がいいだけの立場になるリスクもある。中小企業診断士の小紫恵美子さんは「契約などのトラブルに備え、弁護士など人脈を持つことも重要」と話す。
柔軟な働き方を求める女性が多いのは、夫婦の家事分担が偏っていることや、硬直的な働き方しか許容しない企業が多い現実の裏返しでもある。時間や雇用形態にとらわれない働き方や企業の外部人材の活用が広がれば、女性の活躍機会拡大につながるのはもとより、男性を含め長時間労働が基本だった働き方を変える契機にもなり得る。(井上円佳)
時間、仕事量などを自由に選ぶ働き方の注意点
・自分の病気や出産などで収入が途絶えることもあるので、保険や貯金で備える
・フリーランスは休みを意識的に取る。24時間365日仕事にもなりかねない
・契約書を確認して仕事を始める。クラウドソーシングなどでは追加作業の費用負担なども明確に
・トラブル発生に備え、弁護士、税理士、ユニオンなど個人で相談できる先を確保しておく
(中小企業診断士・小紫恵美子さんへの取材などをもとに作成)
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