全国品評会で金賞の牛乳は乳脂肪分3~3.5%
しかし、脂肪分が多い牛乳ほどおいしくなるかというとそう単純でもない。
松屋銀座本店(東京・中央)の地下に4月下旬オープンした中洞牧場の販売店では1本(720ミリリットル)1000円近い牛乳が人気を集める。全国のこだわり牛乳を対象に食のプロ1600人が試飲した昨年の品評会では「金賞」に選ばれた。乳脂肪分は市販の多くの牛乳より低い3~3.5%しかない。
岩手県岩泉町の北上山中にある中洞牧場では約70頭の牛が気の向くままに草を食(は)み、昼寝をし、出産をする。現在の酪農で主流になっている穀物はほとんど与えない。
牧場長の中洞正さんは「牛は本来、草食動物です。草だけで育てれば草の水分が増える夏にも3.5%以上の脂肪分を維持するのは難しい。しかし健康な牛から搾る牛乳は、脂肪分が3%そこそこでも十分においしいのです」と話す。
おいしい牛乳は幸せな牛から生まれる
脂肪分の違いを一般人はどの程度感じられるのか。筆者もいくつかの牛乳を飲み比べてみた。
まずは「3.7%以上」の成分無調整牛乳と、軽やかな口当たりを売りにした「2.5%」の成分調整牛乳。確かに後者がやや薄い印象はあるが、大きな差は感じられなかった。
次に「1.5%」の低脂肪乳。さすがにこれは薄くなるのがはっきりと分かる。
最後は3%台前半の中洞牧場の牛乳と「5%」をうたう市販の高価な商品。驚いたことに、脂肪分の少ないはずの前者の方が飲み応えがあった。
「おいしい牛乳は幸せな牛から生まれる」と中洞さんは考える。乳脂肪分の高さばかりを重視する業界の価値観に疑問を覚え、脂肪は少なくてもコクのある独自の牛乳づくりを目指してきた。
現在の日本の酪農では多くの牛が牛舎につながれ、ひたすら牛乳を供給する機械のような扱いを受けている。中洞牧場では放し飼い。それも褐色のジャージー種の血が入った牛ばかりだ。ジャージー種は一般的なホルスタイン種に比べて搾乳量は半分程度に落ちるが、コクがある牛乳を出すといわれる。
殺菌温度も味に影響
味に影響するもうひとつの要素が殺菌方法だ。
日本の大手乳業メーカーでは120~150度で1~3秒という「超高温瞬間殺菌」が主流。この手法は効率的ではあるものの加える熱量が多いため、タンパク質を変性させやすく、焦げ臭が生じるともいわれる。
すっきりとした牛乳本来の魅力を感じたいなら、60度台で30分かける低温殺菌商品は試してみる価値がある。大手では高梨乳業(横浜市)が商品化している。さらに、北海道の想いやりファーム(中札内村)が生産する「想いやり生乳」は全国唯一の無殺菌の牛乳だ。50度以上で死滅する乳酸菌も生きている。