2014/7/5

生きものがたり

ハンティングでしばしば水中に飛び込むので、全身をふるって水を切った後の羽繕いが欠かせない=写真 石田光史

しばらくして親はダイブしたが、魚は捕れなかった。くれくれ攻撃が邪魔になったのか、魚が一枚上手だったのかはわからないが、別の魚を求めて飛び去る親鳥をすぐさま2羽が追ったことは言うまでもない。

雌への魚のプレゼント 尻尾からあげるとダメ

カワセミに限らず、サギやカモメの仲間でも、魚を食べる鳥には「頭から飲み込む」という原則がある。尾から飲もうとすれば、ひれやうろこが引っかかってしまうから、なるほどとうなずける。

カワセミ科、カラス科、シジュウカラ科などには、雄から雌に食物をプレゼントする求愛給餌という習性があり、カワセミではプレゼントは魚。その際、雄は魚の頭を先に向けて雌にあげると言われる。これも、そうすれば雌は飲み込みやすいのでうなずけるが、常にそうなのだろうか。

カワセミ科のヤマセミを観察していた方から、尻尾から雌にあげようとしてふられた雄の話を聞いた。ドジな雄だったのか、昨年生まれで初体験だったからなのか。そもそも頭を先に飲み込む行動自体、本能的なものか、学習によるものなのだろうか。

カワセミの幼鳥が自立して、はじめてハンティングに成功した魚を頭から飲んでいるようであれば、それは本能的な行動と思われる。カワセミの観察を続けている何人かに調べてほしいとお願いしていた。観察できた方から聞いた結果では、最初から頭を先にして飲み込むものもいたが、尻尾から飲もうとしてできずに、吐き戻したものもいたそうで、学習も関係しているように思える。

自立前後の幼鳥では、学習途中と思われる成鳥には見られない行動、成鳥には普通の行動に苦労している場面が見られておもしろい。ただ、幼鳥の行く末を思えば、秋冬を生き抜き、翌年春に命をつなぐ子育てに参加できるために、はやく一鳥前になってほしいものだ。

(日本野鳥の会主席研究員 安西英明)

安西英明(あんざい・ひであき) 1956年生まれ。日本野鳥の会が81年、日本初のバードサンクチュアリに指定したウトナイ湖(北海道苫小牧市)にチーフレンジャーとして赴任。野鳥や環境教育をテーマとした講演で全国各地を巡る。著書に「スズメの少子化 カラスのいじめ」など

※「生きものがたり」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「野のしらべ」(社会面)と連動し、様々な生きものの四季折々の表情や人の暮らしとのかかわりを紹介します。

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