ライフコラム

生きものがたり

マダラヤンマが教える 津波で変化した生態系

2013/9/28

9月半ばになると、虫の世界にも秋が押し寄せる。秋の虫が現れ、夏の虫が去ってゆくという表現が適切だろう。東北の場合、今年は台風18号が夏と秋の境界だった。その直前まで、暖かい南風が流れ込んでセミの声もにぎやかだったが、秋晴れの翌日から、朝は冷え込み、遅くまで鳴くツクツクボウシ以外はすっかり影を潜めてしまった。

空が澄んだ色になって、水田には重く垂れた稲穂が輝く。この季節になると、空色の眼をしたマダラヤンマに会いたくて、海岸の湿地に足を運ぶ。

■湿地は生きものの宝庫

湿地の上を飛ぶマダラヤンマ=写真 永幡嘉之

マダラヤンマは北海道と本州中部以北に見られる北国のヤンマ。海岸付近の広い湿地にしか見られないという変わった習性を持つが、なぜか長野県など一部の地域では内陸部の池でも見られる。お盆前に羽化した成虫はしばらく林などで過ごし、9月になると湿地の水辺に戻ってくる。

水色の体も美しいが、何よりも眼の輝きが素晴らしい。まるで秋の空を映したかのように透明で奥深く、見る角度によって紺から水色に変化する。10月まで湿地の上を舞い、産卵に訪れるメスを探し続ける。

湿地という言葉は誰もが知っているが、水田や畑、雑木林などといった身近な里山環境と比べれば、生活との接点は薄い。昔から人々にとって湿地は利用できない土地の代名詞だった。稲作文化が発達するなかでは、排水溝を切って湿地を乾燥させ、農地開発を進めてきた歴史がある。

マダラヤンマが飛び交う湿地=写真  永幡嘉之

しかし同時にそこは生態系を守る上で欠かせない生きものの宝庫でもあった。現在60代以上の方々の多くは夕方に群れ飛ぶヤンマを追ったトンボ採りの経験を幼い日の楽しい記憶とともに持っている。水田の整備が進み、土地利用の「余白」として残っていた湿地が次第に姿を消したことで、トンボの数も激減した。

東日本大震災の津波跡地では、海岸の各地に一時的な湿地が出現した。数カ月でガマやヨシが生えると、数種類のトンボ類が飛来してきた。マダラヤンマは津波で生息地が破壊されたこともあり、震災の年にはごく限られた場所でしか姿が見られなかったが、生き残った個体が新しくできた湿地に飛来しては産卵し、2年目になると宮城県から岩手県の広い範囲で姿が見られるようになった。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL