ライフコラム

生きものがたり

日本の農耕文化つたえる イナゴの佃煮

2013/10/26

よく晴れた秋の朝。稲刈りが進む山形県の水田で、イナゴを採る老夫婦に出会った。ペットボトルにイナゴがぎっしりと詰まっており、自宅で佃(つくだ)煮にするのだという。

水田に多いコバネイナゴ=写真 永幡嘉之

採ったイナゴは布袋に入れて1日置き、ふんを出させてからゆでてゴミをとり、甘辛い味付けで水分が飛ぶまでいる。まれにハネナガイナゴが混じっていることもあるが、大半はコバネイナゴという種類だ。イナゴは気温の低い早朝のほうが採りやすい。稲刈りは朝露が乾いてから始まるので、周囲のコンバインにはシートがかけられたままだ。

■イナゴは農薬の影響で姿を消している

現在でも少数ながら、イナゴを採集して出荷している人がある。面白いところでは、原付きの後方の地面近くに頑丈な網をとりつけて水田の際を走り回り、飛び出したイナゴを集める方法があると聞くし、私も一度だけ、その光景を見かけたことがある。

稲刈りのさなかの水田を歩くと、刈り残されたイネに多数のコバネイナゴが群がって葉を食べており、イネの葉が半分以上なくなっている場所もある。古くからイネの害虫として知られ、農薬がなかった時代の農家の苦労は想像して余りあるが、現在では農薬の影響でほとんど姿が見られなくなった地域も多い。

イナゴを食べることにもおそらく歴史があり、多くの試行錯誤を経て、年月をかけてより良い方法が生み出されてきたはずだ。戦後間もない時代には、小学校単位で、大規模な採集をしていたという話も各地で聞く。

■食卓に定着した背景は

イナゴ採りの光景=写真 永幡嘉之

数ある虫の中からイナゴが選ばれてきたのは、単に農地のまわりにたくさんいたというばかりでなく、採りやすさと食味の2点で総合的に優れていたためだろう。より食味が勝るスズメバチ類の幼虫(ハチの子)は採集が難しいため、あくまでも珍味に留まっているし、養蚕農家にはより身近にあったはずの、カイコのさなぎ(まゆ子)は佃煮にされることはあるものの、イナゴほどには食卓に定着していない。

ライフコラム 新着記事

ALL CHANNEL