この日の芸は小唄「お互いに」に合わせたひょうきんなおかめの踊り。白手拭いでおちょこを3つ包んで顔を隠すと、おしろいをベタ塗りにしたおかめに見える。すかさず「このようにせっかくの(きれいな)顔を隠すわけです」と、「女たいこ持ち」への期待に応える軽妙なひと言に会場がまた沸く。
ただ、たいこ持ちは本来、男の芸。舞台では女に見えないよう気を配り、あくまで師匠や兄弟子の伝統芸を継承する。例えば「ずぼらなお坊さん」役。黒い羽織をさらりと裏返して折り畳み、袈裟(けさ)に見立てて踊る。
日常生活でも芸を磨くのに余念がない。師匠の米七さんのお供で散歩に付き合い、四季の移ろいや町衆との会話の妙を盗もうと目を凝らし、耳を澄ます。三味線などの稽古も欠かさない。入門時「女だから駄目だ」と言われたら、「どうして女だから駄目なのかを見極め、一つ一つ克服していこう」と考えていたという。言葉通り努力を重ね、「浅草で認められた」と米七さんは目を細める。
七太郎さんは「今は客寄せパンダ」と割り切っているが、長く低迷してきた浅草花柳界の再興への期待も寄せられる。町を歩けば「七太郎くん」と声がかかる。浅草で知らない人はいない。たいこ持ちへの注目度も高まり、年内にはさらに男性2人がデビューを予定しているという。「師匠や兄弟子のように、もっと空気をやわらげる力を身につけたい」。七太郎さんの奮闘は続く。
(生活情報部 吉野真由美)