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若妻も「老婆」 知らないと恥かく、日中で違う漢字の意味

2012/12/4

「老婆」。日本語では「年をとった女性。老女」(明鏡国語辞典第2版・大修館書店)の意味ですが、中国語ではなんと、「妻」を指します。日本でいう「女房」や「かみさん」といった感覚で、くだけた場で使われます。ただ年齢層を限定することはないため、20代でも80代でもひとしく老婆=妻なのです。このように同じ字面でも、日本と中国では意味が異なる漢字(漢語)があります。例えば、現代の日本語では、正式な婚姻関係にない男女の不適切な間柄を示すことが多い「愛人」のことを、中国では……。

■中国では胸を張って言える「愛人」

「老婆」の意味は日本語と中国語ではだいぶ違う(講談社中日辞典)

「『これは私の愛人です』と堂々と女性を他人に紹介する中国人に出くわすと、びっくりする日本人も多いのでは」。こう話すのは、成城大学経済学部教授の陳力衛さん。来日して四半世紀、日本語研究の傍ら、学生に中国語や中国文化を教える陳教授によると、中国で愛人は「妻」や「夫」といった正式な配偶者を意味するそうです。日本で使われるときの、後ろ暗い関係を匂わせるニュアンスはまるでなく、文字通り「愛する人」と胸を張って言えることばなのです。

古代中国で生まれた漢字は、伝来の時期については諸説あるものの、遅くとも5世紀ごろには日本に伝わっていたとみられています。日本人はその漢字をそのまま使ったり、漢字の音訓を借りて万葉仮名としたり、ひらがなやカタカナに崩したりしながら、約1600年かけて日本語として定着させました。漢字はそもそも輸入品なので、今も中国と同じ字面の単語が多いのは当然ともいえます。この見た目が同じ漢語は、専門用語で「日中同形語」と称します。

■同形異義語は2%だが…

冒頭の老婆や愛人といったことばは、この同形語のなかでもまったく異なる意味で使われており、同形異義語という分類に入っています。他のユニークな同形異義語としては、例えば「調理」が挙げられます。日本では料理をする行為を示し、「調理師」は国家資格でもある料理人です。しかし中国では「調理」ということばは食べ物などは対象とせず、もっぱら動物や子どもへのしつけと訓練を意味します。日本人の名刺の肩書に調理師と書かれていたら、「中国人は、その人が動物の世話係か調教係かと思ってしまうでしょう」(陳教授)。

また、ビタミンの欠乏により生じる「脚気(かっけ)」という病気も、中国ではなんと、主に足にできた「水虫」を表すそうです。中国の薬局で売られている「脚気霊(霊はよく効くという意味で、薬の名前でよく用いられる)」は水虫治療薬だとか。

陳教授によると、最新の研究では、日本と中国で同じ意味を示すことばが84%で、同形異義語は2%にとどまる、との結果が出たそうです。しかし、2%と少ないからといって、軽く考えるのは危険です。そもそも、英語やフランス語など文字そのものが異なる言語に比べ、中国語に対しては、同じ漢字だからという安心感を抱いてしまい、外国語に接しているという緊張感も緩みがち。くすっと笑ってしまうような違いならよいのですが、なかにはトラブルになりかねない例もあります。

■「有難」はありがたくない

例えば「有り難い」ということば。感謝するという意味では、通常は「ありがたい」とひらがなで書きますが、字数制限などの理由で漢字書きにしているケースもしばしばみられます。でも、タクシーの車内に「毎度ご乗車有り難うございます」という言葉が掲示してあると、観光などで日本に初めてやってきた中国人は「なんと恐ろしい車だろう」とおびえてしまうそうです。中国語では「毎回乗るたびに災難がある」と字面通りの意味になるからです。

「告訴」も要注意です。日本では犯罪の被害者が捜査機関に犯罪事実を申告して、処罰を求めることを指しますが、中国では「単にお知らせする」という意味でしかありません。つまり、中国では「告訴」は日常茶飯事なのです。

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