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親子で体験「辞書引き学習」 話題の勉強法の効果は?

2010/6/6 日本経済新聞 電子版

 教育現場や家庭で広がりつつある「辞書引き学習」をご存じですか。出版不況といわれる昨今ですが、この学習法をきっかけに小学生向け国語辞典の販売が着実に伸び、ここ数年は業界全体で前年比3割増の勢いだといいます。その理由は何か。記者が親子で体験してみました。

知っている語を引く

調べた項目をメモした付せんを辞書のページに張っていくことで、どのくらい辞書を引いたかが実感できる

 「辞書引き学習」とは、言葉への興味・関心がまさに高まり始めたばかりの小学1年生に辞書を与え、生活のさまざまな場面で引くことを勧める学習法で、深谷圭助・中部大学准教授が開発・提唱した。調べた項目をメモした付せんを辞書のページに張っていくことで、どのくらい辞書を引いたかが実感でき、達成感が得られる仕組みになっている。この繰り返しにより子供が自ら学ぼうとする「自学力」を知らず知らずのうちに身に付け、学力向上につながるとされている。

 5月8日、東京都世田谷区の成城ホールで開かれた「辞書引き学習親子体験会」(主催・三省堂書店成城店)には、記者親子を含めた小学生の子供とその親の20組が集まった。三省堂(東京・千代田)では昨年から同様の体験会を主に首都圏で書店と共同企画し、春に数回開催している。参加費は2000円で、小学生向け学習国語辞典と3色の付せん、筆記用具が付く。午後2時、深谷さんが登場し体験会が始まった。

 「辞書の中から知っている言葉をできるだけたくさん見つけてください」「付せんは文字を隠さないように張りましょう」――。辞書は分からない言葉を調べるものだと思いがちだが、「辞書引き学習」は分かっている(つもりの)言葉でも積極的に引かせるのがポイント。深谷さんは「辞書の引き方を教えるのではなく、まずはどれだけ引かせたかという事実と結果が大切」と力説する。子供たちは辞書を開き、調べた言葉を付せんに書いて張り始めた。

 10枚、20枚、30枚……。あらかじめ付せんに番号を記しておくので、調べた語数が即座に分かる。会場では並行して学習の意義など親向けの説明が始まったが、子供たちは会場に流れる音声やテレビ映像も意に介さず隣で黙々と作業を進めていく。「子供たちの目が輝いてきました」と言うのは、三省堂辞書出版部の荻野真友子さん。飽きて会場を歩き回るような子供は皆無で、辞書に集中していく様子がうかがえた。終了の午後3時半には、各自100~200枚程度の付せんが張られていた。

 現在の学習指導要領で国語辞典の引き方を習うのは小学3年生からだが、深谷さんは「3年生で始めるのがよいという根拠はない」と言い、「幼稚園段階で平仮名が読めれば、総ルビ(すべての漢字に振り仮名付き)の国語辞典なら小学1年生でも引ける」と断言する。確かに会場にいた1年生の子供は苦も無く辞書を引き、付せんを張るのがゲーム感覚で面白いのかどんどん進めていた。

 付せんが100枚を超えるころには辞書への抵抗がなくなり、500枚を超えると、子供たちの関心が「数」から「辞書の内容」へと移っていくのだという。学習が進むと1年間で5000枚にも達し、積み重なった付せんの分だけかさを増した辞書は当初の厚みの倍以上ある扇形に。表紙がはがれてしまうほどボロボロに「成長」するのも珍しくない。こうした目に見える変化が子供たちの達成感や自信、辞書への愛着につながり、深谷さんが勤務した小学校では、2冊目以降に「広辞苑」(岩波書店)などの中型辞典を買い求めた子もいたという。

「自学」に目覚める娘たち

 さて、子供たちは家に帰ってからも飽きずに辞書引きを続けることができたのか。体験会から4週間後の記者宅。参加した小学2年生と5年生の娘は――。

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