2013/1/29

もともとはメリヤス

編み物生産者が組織する日本ニット工業組合連合会(日本ニット工連)の中島健一理事長によると、1970年代までは、ウールのセーターも肌着も編み物はすべて「莫大小(メリヤス)」と呼ばれていた。肌着大手のナイガイによると、江戸時代に伝わったポルトガル語の「meias」かスペイン語の「medias」が変化した言葉で、伸縮性があることから「人の大小に関係莫(な)く着用できる」という意味の漢字をあてたという。丸編み製品は当初、肌着や靴下が中心だったが、60年代からTシャツやポロシャツ、トレーナーなど、普段の外出に着る「外衣」化が進む。

80年代になると、そうした外衣がカットソーと呼ばれるようになる。ファッションジャーナリストの日置千弓氏は「70年代後半に米国のデザイナー、ノーマ・カマリがTシャツの生地でデザイン性の高いワンピースやスカートを発表し、脚光を浴びたのがきっかけ」とみる。斬新で快適なカマリの服の製法を耳にした日本のファッション業界関係者が丸編み外衣を指す言葉として「カット・アンド・ソウン」などと呼び始め、徐々に一般の人にも広まったという。

女性の社会進出が普及後押し

カットソー普及の理由について、中島理事長は「女性の社会進出も関係している」とみる。

70年代ぐらいまでオフィスで働く女性はジャケットの中に男性同様、織物のシャツを着ていたが、80年代に入り活発に動きやすい丸編みのTシャツが通勤着として大ヒットした。形状はTシャツでも光沢のある高級糸を使ったものが多く、素材も綿から合成繊維へのシフトが進んだ。当初は「Tブラ(Tシャツブラウス)」とも呼ばれたが、高級感があり、フォーマルにも着られる服を、従来の肌着のようなTシャツと区別するために「カットソー」と呼ぶようになったらしい。カットソーは本来、丸編み生地の外衣すべてを指すのに、特にTシャツを指すことが多いのは、このあたりに原因があるようだ。

私たちの身の回りの衣類は急速に伸縮性があって楽ちんなカットソーに置き換わっている。矢野経済研究所(東京・中野)がまとめた11年の日本のアパレル小売市場規模は9兆502億円で、5年前より11.9%減少。これに対し、日本ニット工連がまとめたカットソーの国内供給量(セーター類や肌着を除く)は11年に11億4388万枚と5年前より10.6%増えた。金額と数量の比較なので価格が下がって流通量が増えている可能性もあるが、衣料品市場が縮小する中では大健闘といえそうだ。中島理事長は一般の人にカットソーが理解しにくい理由を「急速な広まりに消費者の認知が追い付いていない面もある」と指摘する。

パンツやジャケットも

英キャサリン妃が婚約記者会見で着て日本でも大ヒットした英国ブランド「イッサロンドン」のドレスはシルクの糸を使ったカットソー。最近では原子力発電所の事故で注目を集めた「節電ビズ」もカットソー普及の追い風になっている。ビジネスマンに人気の鹿の子素材のワイシャツ「ビズポロ」や、背広でありながら伸縮性のある「ジャージージャケット」はその代表選手。このほか、女性用の細身のパンツ「レギパン」など、以前は普段着にあまり使われなかったたて編みのカットソーも増えている。いずれもカットソーに分類できるが、一般の人がそう思っているとは限らない。

専門店によってはカットソーを省略し、「カット」を正式な商品名に使うところもある一方で、「カットソーは社内用語でお客の目に触れるところでは使わない」というところもある。“立場”はいまだ定まらないところもあるが、知らない間にあなたのワードローブもカットソーだらけになっているかもしれない。(堀聡)