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王さんもびっくり 「一本足打法」経営、誕生の謎

2011/6/28

一本足打法が試練を迎えています。といっても、巨人の王貞治選手(現福岡ソフトバンクホークス会長)にまつわる野球の話ではありません。企業経営において強みを持つ特定の事業や製品が、売上高・利益のほとんどを稼ぎ出している状態を指す「一本足打法」。新聞では2000年代初めごろから急増しているこの表現、一体いつごろ生まれたのでしょうか。また、こうした使われ方を「知らなかった」と驚いた王さんからのメッセージとは――。

■ルーツは帝人のポリエステル?

一本足打法という言葉は今なお影響力を持つ(写真は東日本大震災被災地の小中学生に野球を教える王貞治さん)

日本経済新聞の紙面に登場した主な用例をみると、下表の通り製造業をはじめ食品・外食業、流通業、外国企業もあり、対象も事業や製品にとどまらず特定の地域の収益も指したりと、幅広く使われている様子です。全国紙各社の記事データベースで調べられる範囲で最も古い用例は1977年12月31日付読売新聞で、帝人のポリエステル事業に触れた記事。日経の記事データベースでも同事業が最も古いことから、「企業経営における一本足打法」を定着させた元祖は帝人である可能性が高いとみられます。

特に読売の記事は「帝人はポリエステルに主体を置いた経営で、業界でも『一本足打法』の異名がある」と断言しており、繊維業界ではこの時点で相当定着した呼称だったことがうかがえます。93年7月28日付日経産業新聞には既に60年代後半にはそう呼ばれていたという記事があり、帝人広報部も「正確にいつごろから、ということまでは分からないがあり得る話」との見解です。

■昭和初期まで遡れる「一本足」

この点について王さんに取材してみると、「僕の打ち方が元になったかどうかは分からない」との感想ですが、確かに半分は正しいといえそうです。というのも単一の事柄に頼ることを「一本足」と表現する歴史は古く、昭和初期の30年10月23~25日付の中外商業新報(後の日経)で米国向け輸出に関し「日本は生糸貿易の一本足で立つてゐる」との記述を見つけられるからです。当時の日本では生糸は米国向けの主力輸出品。日本を一企業とみなせば、この「一本足」が意味するのは企業経営における一本足打法とほとんど同じ。もともと一本足という表現が存在したことが、一本足打法へと派生する下地だったとみて間違いないはずです。ではなぜ、「一本足→一本足打法」という変化が生じたのでしょうか?

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