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スキージャンプのK点 なぜ「極限」から「基準」へ

2013/2/26

高梨沙羅選手がワールドカップ(W杯)で男女を通じて日本人初のシーズン総合優勝を決め、1年後のソチ冬季五輪(ロシア)への期待が膨らむスキージャンプ。選手が猛スピードで遠くまで飛翔(ひしょう)する迫力満点のウインタースポーツだ。この種目でよく知られる競技用語に「K点」がある。ドイツ語の「Kritischer Punkt」の略で、これ以上飛ぶと危険であるというジャンプ競技場(台)の「極限点」を意味していた。選手が着地する斜面(ランディングバーン)に赤いラインで示されているのを、テレビや写真で見た人は多いだろう。そのK点がいつの間にか平凡な「基準点」に変化していたのをご存じだろうか。

■長野五輪で日の丸飛行隊が活躍

スキージャンプ用語のK点の意味は変化している(長野五輪のラージヒル団体)

K点が広く世に知られるきっかけとなったのは1998年開催の長野五輪だろう。日本は地元の利を生かして冬季五輪で過去最高の5個の金メダルを獲得、そのうち2個はスキージャンプによるものだ。白馬ジャンプ競技場で行われたラージヒル団体では原田雅彦選手(当時)や船木和喜選手ら4人の「日の丸飛行隊」が活躍し、テレビや新聞で「K点越えの大ジャンプ連発」などの言葉が躍った。

それ以降、「K点越え」は限界を超えたすごさの比喩として日常会話に出てくるようになった。「この問題はK点越えの難しさだ」「彼の言動はときおりK点を越えるので困る」といった具合だ。最近ではアニメの主題歌に「K点越えで 楽しんじゃって」というフレーズも登場している。

■トリノ五輪では意味が変容

ところが実際の競技では、K点越えはかなり以前に「基準を上回る」程度の意味合いに格下げされていた。飛行スタイルやスーツなど用具の改良で、遠くへ飛ぶための技術は年々進歩している。それに対応して着地をより安全なものとするため、世界各地で既存のジャンプ競技場はランディングバーンの延長などの工事が施され、五輪開催地の新設ジャンプ競技場は大会ごとに大型化していった。その結果、一流選手にとってK点は単なる通過点となり、目標とする限界点ではなくなってしまったのだ。

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