14世紀ごろに書かれたとされるおおもとの本をベースにした「日本古典文学大系・平家物語」(岩波書店、1959~60年)の文章を追うと、平家の旗は「紅旗」ではなく「赤旗」ばかり。源平合戦に由来する2組の戦いを表現するのなら、「赤白合戦」とするのがふさわしく思える。
■紅は幸運の象徴、赤は…
なぜ赤白ではなく紅白なのか。決定的な証拠は残っていないが、考えられる説はいくつかある。一つは漢字発祥の地・中国の影響だ。
「中国ではあか、といえば赤ではなく紅の字が多く使われる」と話すのは、共立女子大名誉教授で日本中国語検定協会理事長の上野恵司さん。「紅は単にあかい色を示すだけでなく、『好ましく魅力的な色』とされている」
例えば「紅人」は人気者、寵児(ちょうじ)という意味。ご祝儀は「紅包」と呼ばれる。紅は色彩だけでなく、縁起の良さや事業の順調さをも示す、幸運の象徴のような漢字だ。
赤はどうか。紅に比べると限定的な使われ方が多く、色としてよりも「赤脚(裸足(はだし)になる)」「赤裸裸(丸裸)」――など体を露出する意味で使うことが多いという。転じて「赤貧(貧しい)」など何もない状態を指す言葉にもなるそうだ。
源平合戦の故事そのものに由来する、という説もある。
平家物語に登場する源平合戦のハイライト、壇ノ浦の戦いの場面にこんなくだりがある。
「海上には赤旗あかじるしなげすて、かなぐりすてたりければ、龍田川の紅葉ばを嵐の吹ちらしたるがごとし」
源氏の手に落ちた平家一族が滅んだ後、平家のシンボルだった赤旗が海に散乱した様子を、紅葉の美しい色になぞらえたシーンだ。紅は、5世紀ごろ日本に上陸し染料に使われた紅花(べにばな)のことも指す。とりわけ身分の高い人々が好んだ色だったという。
■日の丸も紅色
ちなみに1999年にできた「国旗及び国歌に関する法律」では、日章旗(国旗)の日の丸の部分も赤ではなく紅色。日本でも紅色は単なる赤ではない、特別な意味を持つ色のようだ。
ただ近年は、紅白ではなく「赤白」で対決の構図を表すケースが出てきている。例えば子供たちが運動会で使う「紅白帽(こうはくぼう)」。これを「赤白帽(あかしろぼう)」と呼ぶ人が多数派になっているようなのだ。