2013/7/17

ことばオンライン

夢枕獏氏の解説から「刃牙」の順に浸透か

1993年の「グラップラー刃牙」は「心が折れる」が使われ始めた頃の例((C)板垣恵介/秋田書店)

プロレス少女伝説は93年秋、文芸春秋から文庫化。この時に解説を執筆したのが、格闘技に造詣が深いことで知られる作家の夢枕獏氏だった。「“心を折ってやりたかった” まさに、この神取しのぶの言葉の発見が、読者としてのぼくが、本書に対して降参した――つまりギブ・アップをした最大のポイントである」と絶賛。「発見」という表現が、当時はこの言葉がまだ一般的ではなかったことをうかがわせる。

「心が折れる」は、現在もシリーズで連載が続く格闘技漫画「グラップラー刃牙」(板垣恵介作、秋田書店)で93年末にも登場。モンゴル系ボクサーの幼少時の回想シーンで、「真の敗北というのはなユリー。心が折れることを言うのだ」などと使われている(週刊少年チャンピオン94年3+4号)。板垣氏は神取氏の発言に「インスパイアされた」とコメントしている。

格闘技の世界に端を発した「心が折れる」は、90年代後半ごろには他のスポーツ全般へと広がっていく。例えば00年9月4日付スポーツ報知では、不振だったプロ野球の上原浩治(当時巨人)についての記述が確認できる。

00年代半ば以降になると、トップアスリートを題材に、タイトルにこの言葉を織り込んだ書籍の出版が相次ぐ。「折れない心」(10年、野村忠宏=柔道)、「心は折れない」(12年、内山高志=ボクシング)など格闘家の著作もあるが、プロ野球、サッカー、競泳、体操など競技は幅広い。類書の出版点数推移から、10年ごろにはスポーツ以外の分野にも急速に広まったとみられる。

タイトルに「心が折れる」などを含んだ、スポーツ選手を題材とした書籍
タイトル 選手 競技 発行年
金本知憲 心が折れても、あきらめるな!金本知憲※プロ野球2009
折れない心野村忠宏※柔道10
前に進むチカラ 折れない心を作る7つの約束北島康介※競泳11
長友佑都の折れないこころ長友佑都サッカー11
心は折れない内山高志※ボクシング12
折れない心を支える言葉工藤公康※プロ野球12
逆境での闘い方 折れない心をつくるために三浦大輔※プロ野球12
内村航平 心が折れそうなとき自分を支える言葉内村航平体操13

(注)※は自著。副題での使用を含む

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