お盆にふるさとに帰った人も多いだろう。母親のおいしい手料理を食べたり、海が近ければ新鮮な魚介を盛ったお造りを堪能したりしたかもしれない。祖父母におもちゃを買ってもらった子どももいただろう――。実は、前記の文の中には、室町時代のころから、宮中に仕える女官が使い始め、現代に伝わった「女房言葉」がいくつか含まれているのだが、お分かりだろうか。今回は、今に伝わる女房言葉を紹介する。
■代表格は「おかず」
青物 | 緑色の野菜。野菜の総称 |
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あつもの | 野菜や魚肉などを入れて作った熱い吸い物 |
おから | 豆腐を作る際、豆乳を搾り取った残りかす。搾りかすのことを「から」と呼んだことから |
おつむ | 頭のこと。頭を意味する「つむり」という語から |
おでん | コンニャクやダイコン、サトイモなどをしょうゆ味で煮込んだ料理。豆腐やコンニャクなどに練りみそをぬって焼く「田楽焼き」と区別した |
おにぎり | にぎり飯のこと。おむすび |
黄な粉 | 大豆をいってひいた粉に砂糖をまぜたもので、もちや団子にまぶした。「黄なる粉」から |
波の花 | 食塩のこと。昔、塩はほとんどが海でつくられたことから |
ひもじい | 空腹を意味する「ひだるし」という語から。語頭の「ひ」に「もじ」を付けた |
大辞林(第2版)を参考に作成
女房言葉とは、宮中に仕える女官が使った隠語的な言葉のこと。主に衣食住に関連したものが多く、接頭語の「お」を付けて丁寧にしたり、語の最後に「もじ」を付けてえん曲的な表現にしたりした。
室町時代に始まり、江戸時代には将軍家などに仕える女性の間でも使われるようになった。さらに町人に広まり、現代では一般的に用いられている。
代表的な言葉としては「おかず」がある。食事の献立で、主食のご飯と一緒に食べる料理(総菜)を幅広くさす言葉だが、「(総菜の)数をとりそろえる」という意味から、おかずと言うようになった。
また、ごはんを茶わんに盛るときに使う「しゃもじ」。もともとは杓子(しゃくし)だが、語頭の「しゃ」に「もじ」を付けて、しゃもじと呼ぶようになったといわれる。
■おいしいは古語の「いし」から
では、冒頭の文に戻ろう。1つめの女房言葉は「おいしい」だ。
いまではすっかり形容詞として定着しているが、「いし」という古語の形容詞に、接頭語「お」が付いて「おいし(い)」となった。いしは「美し」とも書き、好ましい、優れるという意味。味がよいことを丁寧な表現で言おうと、おいしいという言葉ができたといわれる。
2つめは「お造り」。魚の刺し身(切り身)のことだが、特に武家社会では「刺す」「切る」といった言葉を嫌った。また当時、都だった関西地方では魚を切ることを「つくる」と言い、刺し身を「造り身」と言った。これに接頭語を付けて、お造り身となった。その後、身が省略されて、お造りとなった。
3つめは「おもちゃ」だ。手に持って遊ぶものという意味で「持て遊び」と呼んでいた。やがて「持ち遊び」となり、「もちゃそび」に。さらに「もちゃ」と省略されて、接頭語が付いて「おもちゃ」といわれるようになった。