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「制振」から「制震」 2度の大震災が表記を変えた

2013/3/12

東日本大震災から11日で2年が経過した。震災を機に、自宅マンションなどの地震対策が気になりだした人も多いだろう。対策は大きく3つに分類される。地震の揺れに耐えられるように建物を頑丈に、粘り強く造る「耐震」構造。基礎部分(地中)に設けた機構によって揺れと建物とを切り離す「免震」構造。その中間が、建物に施した装置によって揺れを吸収することを目指す「せいしん」構造だ。この構造、ゼネコン(総合建設会社)各社によって「制振」「制震」と表記が異なっているが、安全性に差があるのだろうか。

■国語辞典はばらばら

ゼネコン各社のパンフレットやホームページでは、「制振」「制震」ともに使われている

国語辞典を引いてみると、「制振構造のみ」の掲載や、「制震のみ」「制震構造のみ」「制振・制震、制振構造・制震構造を併記」などばらばら。三省堂国語辞典は他の国語辞典に先駆けて採用した1992年の第4版で制振だった見出しを、2008年の第6版では「地震や風でたてものがゆれるのをおさえること」という語釈を変えないまま制震に変更している。

専門の用語辞典類を参照してみると、様相は一変。制振が優勢となる。20近い建築・土木関係の用語辞典類では大半が制振のみを掲載しているか、制振をメーン見出しに掲げた上で制震を併記しているのだ。そんな中で唯一、制振構造・制震構造を別々に定義していたのが「建築学用語辞典第2版」(日本建築学会編、99年)。制振構造を「制振(振動制御)のメカニズムをとり入れた構造。風や地震による構造物の揺れを目標値以下に抑える目的で用いられる(略)」、制震構造を「制振構造のうち、特に地震に対する揺れを抑えるメカニズムを組み込んだ構造」と解説している。

■包括概念か個別概念か

近年の主な用語辞典類での「制振」「制震」の扱い
制振、制震を別々の項目として掲載
建築学用語辞典第2版(1999)
制振のみ掲載
イラスト詳解建築・設備工事現場用語(2011)、新しい建築用語の手びき(10)、新版図説建築用語事典(05)、早引き建築現場用語辞典(96)、建築用語辞典(95)、逆引き・建築用語辞典(94)、建築学用語辞典初版(93)
制震のみ掲載
新しい建築設備・インテリア用語の手びき(02)、建築・土木用語がわかる辞典(98)、建築大辞典(93)、現代建築施工用語事典(91)
制振(制震)などと併記して掲載
現場管理用語辞典(12)、図解建築現場用語辞典(05)、図解事典建築のしくみ(01)、土木用語大辞典(99)
制震(制振)などと併記して掲載
建築構造用語事典(04)

(注)かっこ内は発行年、「制振構造」など複合語での掲載も含めた

ただし「せいしん」単独では「振動を自動的に感知し、それを低減させるために人為的に制御すること(略)」として制振のみを載せている。この点からも制振は地震や風を含む全ての揺れに対する包括的な概念であり、制震は地震の揺れに対する個別的な概念だという関係がうかがえる。広い意味と狭い意味のどちらを重視するかの差にすぎず、もちろん安全性に違いがあるわけでもない。ではなぜ制振の方が一般的な概念となり、用語辞典類でも優勢となったのか。

根拠となりそうなのが、文部省(当時)が学術用語の整理・統一を目的に各分野の学会と共編した「学術用語集」。「建築学編」(増訂版、90年)は「制振」を学術用語として定めている。「震」を使う「耐震」(複合語の語幹として)や「免震」も収録しているだけに、「振」を使うことへの明確な姿勢が読み取れる。分野を変えて「土木工学編」(増訂版、91年)も「制振対策」を学術用語に制定している。建築学編は55年の初版でも制振単独ではないものの「制振器」を収録。つまり制振は国のお墨付きという公的な根拠があるだけでなく、伝統にも裏打ちされた表記だといえる。それなのになぜ、表記の差異が生まれるに至ったのだろうか。

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