2012/9/11

ことばオンライン

とはいえ、この頃から「露」表記が広く使われるようになったわけではなく、文学作品などではまだまだ「魯」が見受けられました。新聞で「露」が使用されるのは1880年代に入ってからで、定着するまでもう少し時間がかかったといいます。中外物価新報(日本経済新聞の前身)の古い紙面を繰ってみたところ、1878年3月23日付には「魯」が、1885年4月30日付では「露」がロシアを表す見出しとして確認できました。

好んで「魯」を使った社名も

漢和辞典で「魯」を調べると、確かに「おろか。にぶい」(大漢和辞典)という意味が書かれていますが、日本ではロシア側が気にするほど「魯」に悪いイメージはなかったのではないでしょうか。中国春秋時代の国「魯」は孔子の生まれた国としても知られていますし、「魯」を使った姓名もあります。また、好んで社名に「魯」を使う企業もありました。むしろ「露」のほうに良くない印象があったかもしれません。

水産最大手、マルハニチロホールディングスの前身のひとつであるニチロの旧社名は1989年まで「日魯漁業」でした。旧日魯が設立された1914年は、すでに「露」が使われていた頃でしたが、「露」では「はかないツユ」に通じて縁起が悪いとする一方、「日魯」を縦に並べれば2つの「日」が「魚」を挟み「毎日毎日魚がとれるという意味になって縁起が良い」(日魯漁業経営史第一巻、1971年)という発想で、社名には「露」ではなく「魯」が採用されました。漢字の意味の捉え方には、それぞれ理由があって面白いところです。

なお日本経済新聞では、1991年12月のソビエト連邦消滅後、ロシアの略称を漢字の「露」ではなく、片仮名の「ロ」で統一しています。「露」は現在、日露戦争や条約名など主に歴史に関する語として使われています。

(小林肇)

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